国交省・運輸事業安全に関するシンポジウム2016

国土交通省主催「運輸事業の安全に関するシンポジウム2016」

こんにちは!編集部Iです。

10月20日(木)に東京国際フォーラムで開催されたNASVA安全マネジメントセミナーに引き続き、国土交通省が主催する「運輸事業の安全に関するシンポジウム2016」が10月24日(月)、昭和女子大学・人見記念講堂で開催され、取材をしてきました。

平成18年10月に導入された「運輸安全マネジメント制度」。シンポジウムでは、制度導入10年目の節目としての総括と、これから先10年での取り組みについて意見交換が行われました。

まずは国土交通省からの報告からスタート。運輸安全マネジメント制度推進に参画されている早稲田大学理工学術院教授・小松原明哲氏による基調講演、運輸事業者からの報告(3社)、パネルディスカッションという流れです。

制度導入のきっかけとその役割とは?

運輸安全マネジメント制度導入のきっかけは平成17年4月25日に起きた列車脱線事故。ヒューマンエラーに起因すると考えられる事故・トラブルが連続して発生したことを受け、ヒューマンエラー検討委員会を設置し、輸送の安全確保を向上させるためにスタートしたものです。

国交省大臣官房 危機管理・運輸安全政策審議官 東井氏からの報告

運輸安全マネジメント制度導入は当初、バスの場合は200車両以上、タクシー・トラックは300車両以上の大規模事業者を対象に義務化。鉄道・海運・航空はすべての事業者を対象にしてきました。

その後、平成24年4月29日に関越道高速ツアーバス事故が起き、翌年の10月より、すべての貸切バスと高速乗合バス事業者に対し、運輸安全マネジメント実施の義務を拡大。

平成28年4月1日時点で、保有するバスの台数が50車両未満の上位1,900者に対する評価を今年度から本格実施し、下位1,900者に対しては現在検討中と発表がありました。

「運輸安全マネジメント制度」の目的は、トップ(経営者)から現場まで一丸となり安全管理体制を構築・改善することにより輸送の安全性を向上させること。JR西日本・福知山線で起きたような列車事故を防ぐためには、経営者自らが主体的にかかわり、「ヒヤリハット」の段階から事故を未然に防ぐ対策が必要です。

ことばはちょっと難しいですが、シンプルにいえば「安全をつくりだす仕掛けを各事業者が工夫し、つくれ」というのがこの制度の目的。

国交省が各事業者に義務付けていることは「安全管理規定の作成」と「安全管理統括者の選任」の2点。安全体制への自主的な取り組みを期待し、それを評価、支援、助言するのがこの制度の在り方です。

事業者にあったやり方と工夫でその会社にあった「安全づくり」に取り組んでほしいというお話が国土交通省 大臣官房 危機管理・運輸安全政策審議官・東井芳隆氏よりありました。

先日の第11回NASVA安全マネジメントセミナーでは経営者が「燃費のいい走り方をせよ」と乗務員にいったところ、カーブでは減速せず、信号は無理に渡るなど、安全とは逆行するような運転になってしまったという事例報告がありました。

このように「トップのひとこと」は、現場を大きく変えてしまいます。それゆえ、トップが積極的に安全管理体制づくりにかかわり、現場との意思疎通を図る「運輸安全マネジメント制度」は重要な役割を担っているといえることでしょう。

導入後のこの10年、6,000者を超える運輸事業者に対して評価を実施。トラック事業者全体で死傷事故件数は約1割減少、制度を導入している事業者においては約3割減少することができました。また、鉄道事業者では「部内原因」による輸送障害は約1割減。バス事業者の事故等による保険金支払い額は、制度導入事業者においては7割も減少したそうです。

今後の運輸安全マネジメントの方向性は?

「ヒヤリハット」事故が頻発したことが制度導入のきっかけになったにも関わらず、「ヒヤリハット」軽減対策が向上していないというのが実情。

平成26年度の運輸事業者における運輸安全マネジメント制度への取り組み充足率をまとめたデータを見ると、経営トップの責務や安全方針などが着実にUPしているのに対し、「事故、ヒヤリハット情報等の収集・活用」は低いままでした。これは大規模事業者、中小規模事業者ともその傾向が見られました。

それに対し、大規模事業者においては「マネジメントレビューと継続的改善」は向上傾向にあり、PDCAサイクルはきちんと回っていることがうかがえます。

PDCAサイクルの図
(参考提供:国土交通省)

しかしながら、中小規模事業者では「マネジメントレビューと継続的改善」、「内部監査」、「安全管理体制の構築・改善に必要な教育・訓練等」、「重大事故等への対応」がまだまだ不足していることがわかりました。

国交省としては、小規模事業者への浸透がまだ進んでいないことを受け、中小事業者へのきめ細やかなサポートやアドバイスが必要だと考えているそう。特に中小の場合、内部監査で客観的にチェックする機能が働きにくいという問題があります。大手事業者と同じ安全体制の構築や手法を導入することは難しいため、事業規模にあった評価や啓蒙活動が急務といえます。

今後は安全管理体制を構築し、自律的に運用している事業者に対しては、さらなる安全性の向上に向けたスパイラルアップを支援。

PDCAサイクルのスパイラルアップ

安全管理体制の構築途上という事業者に対しては、制度の理解促進を図るとともに、その取り組みを支援することを検討中とのことでした。

安全を現場任せ、人任せになりがちな運輸事業

続いて制度導入に際し、有識者として参画してこられた小松原明哲氏(早稲田大学 理工学術院 創造理工学部 経営システム工学科 人間生活工学研究室 教授)の基調講演です。

小松原明哲氏

運送業は、社会インフラの一端を担い、ちょっとした事故で大きな混乱を招くため、安全・安定的な輸送が強く求められる業種。

さらに運輸事業はいろんな要因に影響を受けるため管理・標準化が難しい業務であり、運転者1人に多くの利用者の命や財産がゆだねられるという特殊性があります。

輸送中は経営者や管理者の目を離れるため、リアルタイムの現場支援しにくいことから、安全がつい「現場任せ」「人任せ」になりがちな傾向です。

小松原さんは「腐ったリンゴ理論(bad appple theory)」を例に挙げ、事故はそれを引き起こしたドライバーが悪い(=腐ったリンゴ)、ドライバーを懲罰・矯正し、それでだめなら交代させればよいと考えがちと指摘。

事故を起こしたドライバーさえ処分すれば問題ないのではなく、ドライバーの管理(=果物かご)に問題があったからであり、そこが改まらなければドライバーを入れ替えてもまた事故を起こす可能性が高いとおっしゃっていました。

いままで起きてきた大きな事故は、企業風土そのものを見直さないと防げなかったもの。安全は経営責任であり、事故は経営・管理の失敗であるという見方が「運輸安全マネジメント」導入後、浸透してきたように感じているそうです。

「今まで事故がなかったから」
「大丈夫です、信じてください」

といわれたところで、安全である根拠が示されない限り、利用者の不安は払しょくされません。

この制度で評価を受けることで、事業者が「安全の説明」が根拠をもってきちんとできるようになったのがメリット。

組織的な取り組みでドライバー(=リンゴ)の質を高め、利用者の安全を保障するという実効性のある安全活動がとられるようになってきたと評価されていました。

今後はヒューマンエラーに起因するような人的要素以外にも、テロなどの社会要素、地震や豪雨などの自然要素、技術や設備などの老朽化による技術要素、計画要素なども考慮した安全への取り組みが重要。中でも若い世代の就労者はどの業種も減少傾向にあり、高齢者や女性に配慮した働き方も必要に。

もう一つの課題は中小事業者へどのように制度や意識を浸透させていくかです。

大規模事業者と違い、経営の現場の距離が短いのが特徴。経営者の意識が何よりも重要になります。また、意識があっても「知識」がなければダメ。身の丈にあった安全マネジメントシステムの構築と安全を推進する知識、技術の獲得が急がれます。

ドライバーからは、どんな軽微な「ヒヤリハット」でも、進んできちんと報告してもらえる企業風土づくりが有効だとおっしゃっていました。

3つ目の課題は制度を評価する国側のスキルアップ。評価者は鏡であり、事業者はその鏡に姿を隠さずに移すことで自分自身を知ることができます。事業者との信頼関係を築き、評価することで事業者側にも利益が得られるように、一緒に同じ目標に向かって取り組むという姿勢が大切です。

4つ目は事故を未然に防ぐという取り組みの充実。そのことが本来の姿であり、軽微な問題の段階で対策を講じることで大きな事故を起こすことは着実に減らせます。

5つ目は安全マネジメント推進への方法論の研究。安全文化を構築し、未然防止活動を充実、そして利用者意識の高揚など・・・。より一層高いレベルでの安全輸送確保には常に取り組み続けることが欠かせません。

活動なくして成果なし。活動を包み隠さず見せることができること。安全は経営・管理の結果論であり、ドライバー個人の問題ではありません。わざわざ「安全第一」といわなくても取り組める企業風土、体制づくりを目指してほしい、とおっしゃっていました。

安全第一を企業風土に

ヒヤリハット報告を積極的に行える仕組みづくり

後半は運輸事業者からの報告です。
1社目は、西武鉄道株式会社・取締役常務執行役員 飯田則昭氏から。

西武鉄道 事例報告

西武鉄道で運輸安全マネジメント制度導入後、2007年7月に1回目の評価を受けています。その後、10年間で評価を受けたのは6回。2014年12月に

①経営トップのリーダーシップによる積極的関与は「全社一体となった管理体制の強化」へ
①安全重点施策の達成度の検証、見直しの仕組みは「安全管理体制の盤石な環境整備」へ
③各種会議、現場巡回での現場との双方向コミュニケーションの確保は「意見交換実施による安全取り組み効果向上」へ

と高い評価を受けたそうです。
この時、今後さらなる取り組みを講じることとされたのは「安全重点施策の達成に向け、各現業においてもPDCAサイクルを回す仕組みの深度化」でした。

前述で指摘されてきた「ヒヤリハット」問題にどう向き合うかという課題については、「事故の芽情報の収集・共有」という活動を掲げ、不安全や危険な兆候を発見したら連絡をもらえるような体制づくりを推進。
過去に起きた「事故のカレンダー」作成や、前日起きたトラブルや事故など、同業他社で起きたものも含め、毎朝7部門の安全管理者長が集まる会議で議題にあげて検証しているそうです。

西武鉄道では1986年に大雪の影響で起きた事故を教訓にするため、事故情報展示室を開設。つねに問題と向き合いながら、さらなる安全の高みを目指していらっしゃいます。

過去の重大事故を教訓に、さらなる安全管理体制の強化を

2社目の事例はしずてつジャストライン株式会社 専務取締役 風間直幸氏の報告。

しずてつジャストライン

しずてつジャストライン株式会社は、静岡鉄道株式会社の前身である静岡電気鉄道株式会社の自動車部としてスタート。2002年に分社し、静岡中部地区の公共交通機関として乗合バス事業を行ってきました。

現在では路線バスだけではなく貸切バス事業、旅行業なども営んでいらっしゃいます。

安全対策へ取り組むきっかけとなったのが昭和52年8月11日、昇仙峡グリーンラインで起きた観光バス転落事故です。

運輸マネジメント制度導入前は3年連続で死亡事故を起こしてしまうなど、事故防止に対する取り組みが甘かったことを痛感。大型車や大型2種免許を所持しているドライバーを前提とした安全教育しか行っておらず、運転技能も日々の仕事の中で先輩から後輩へ教えればいいという体制でした。

その後、平成18年2月にも事故が・・・。

事故防止は「運転士個人」の能力にゆだねられており、事故惹起者へのの教育が中心で事後対応的。自己分析や再発防止策の検討が不十分。何よりも安全に関する明確なビジョンが示されてこなかったのが原因なのではと考えたそうです。

このような重大事故を発生させないために「人はミスをするもの」という前提に立ち、そのミスが人名を奪うことになるという自覚を促すため「重大事故撲滅5項目」を設定。会社一丸となって安全意識の向上に取り組んできたそうです。

運輸安全マネジメント制度導入後は事件件数は半減。改善効果が見られてきたと思っていた矢先、平成24年に運転中の意識喪失による衝突事故、25年に車庫入れの際に歩行者と接触し、死亡させてしまうという重大事故が発生してしまいます。

全社で事故防止に取り組んできた結果、重大事故が無くなったことによる「マンネリ化」や指導の甘さ、リスクの想定ができてなかったのではと分析。

安全管理体制の見直しを図るとともに、健康起因による重大事故発生を受け、健康管理の強化、安全支援機器の積極的導入などの新たな取り組みも進めています。

ドライバーの客観的な評価、インセンティブで意識向上を図る

3例目はヤマト運輸株式会社 取締役常務執行役員 臼井祐一氏からの報告。
「安全第一、営業第二」を基本理念に掲げ、安全運転・安全作業の徹底に取り組んできた10年でした。

安全指導を専門にする安全部を1969年に設立。

日々管下のセンターを巡回しながら法令の遵守、個人の運転レベルの向上、交通・搭載事故防止の徹底に取り組む安全指導長(旧安全指導員)を1982年には導入。セールスドライバーへの安全教育を徹底する体制を整えています。

2010年にはヤマト運輸独自の安全・エコナビゲーションシステム「See-T Navi」を導入。セールスドライバーの運転操作をデータ化=見える化をすることで、効果的な個人指導と人や環境にやさしい運転を進めています。

このシステムで収集したヒヤリハットデータを有効活用。データを共有することで安全管理を一元化して管理できる体制を整えていらっしゃいます。

ドライバー自身の意識向上やモチベーションアップとして、表彰制度を導入。無事故の年数、走行距離に応じてインセンティブを設けています。

その他、安全大会(ドライバーコンテスト)、交通事故ゼロ運動、安全集配ルートマップの作製、子ども安全教室など、安全意識向上へ着実に取り組んできました。

最近では、先ほどの健康起因事故防止のため脳MRI検査を実施したり、データ分析による事故予兆者への教育強化、外部施設での安全研修受講、海外での宅配便事業展開に向け、各国の事情に合わせた安全マインドの育成などにも取り組んでいらっしゃいます。

なかなかここまでの取り組みを行うことは容易なことではありません。「当たり前の安全」を実現する裏では、各事業者が日々、絶え間ない努力を積み重ねているということが実感できました。

運輸安全マネジメント制度の今後について~パネルディスカッション~

パネルディスカッション

休憩をはさんで、最後は「パネルディスカッション」。
シンポジウムに登壇された方の他、国土交通省大臣官房 運輸安全管理官の三上誠順氏と三井住友海上火災保険株式会社から執行役員 商品本部 自動車保険部長である大知久一氏が登壇。
司会進行はフリーアナウンサーの酒井ゆきえさんです。

これからの運輸安全マネジメント制度の在り方について、忌憚なき意見を交換するということでスタート。

安全重視の輸送、人材の確保と育成について、各事業者としてどのように取り組んでいこうと考えているのかという質問に対して、西武鉄道の飯田さんは

「ともかく取り組み続けるという継続が大切。事故の芽情報を注視し、リスク評価をし、改善すべきところは迅速に取り組みたい」と回答。

しずてつジャストラインの風間さんは

「重大事故の惹起をトリガーに安全管理体制をスパイラルアップしてきた経緯がある。今後は未然対策できるように注力していきたい」

ヤマト運輸の臼井さんは

「安全意識向上に向けて継続的に発信。安全施策や到達目標をきちんと立て、会社として計画に取り入れ、取り組むことが大事。社長への監査や安全と向き合う姿勢を持ち続けたい」

と、おっしゃっていました。

安全管理体制は「マンネリ化」との闘いでもあります。行政側に求めることは評価側にも変化をもって、向上につなげるヒントや新しい視点での評価がほしいと飯田さん。

どの事業者も頭を悩ませている「ヒヤリハット」への取り組みヒントになるようなもの、自動車だけではなく航空・海運など他のモードでいい点があれば、他事業へも行かせるようなものを発信してほしいとおっしゃっていました。

パネルディスカッションの登壇者

三井住友海上火災保険の大知さんはからは、損害保険業界という立場からの意見。

事故を防止する取り組みにより、損害保険金の支払いが減り、結果として保険料が下がるという双方にとって「Win-Win」の関係にあります。

しかし、事故起こさないという意識は中小の事業者の間でも高まっている者の、実践できているかというとまだまだで、悩んでいる事業者さんは多い。

運輸安全マネジメント制度で評価を受けている事業者さんよりも、中小の事業者さんの方が損害保険に加入している割合は多い。

業界として協力できることは、運輸安全マネジメントへの取り組み途上の、こういった悩みを抱えている事業者さんに対し、行政と協力しながら安全意識の向上と対策をサポートできればと考えているそうです。

たとえば「安全管理体制診断」や「事故傾向分析レポート」、「安全運転管理支援プログラム」、「安全運転教育セミナー」、「運転適性診断」など、事故防止に向かた損害保険各社で用意しているサポートサービスがあります。これらを活用しながら、将来的には本格的なコンサルティングサポートを行っていければとのこと。

まずは無償で簡単に取り組める「スマNavi」というテレマティクス技術を活用した企業向けの安全支援ツールの導入を提案。安全運転取り組みで最大で6%の保険料割引も受けられるということ。また、睡眠時無呼吸症候群(SAS)予兆をチェックするスマホアプリもあり、従業員の健康管理支援についても無償で提供。

悩める事業者さんの事故防止をバックアップする体制に取り組んでいるそうです。

中小事業者へのアプローチが課題

さまざまな意見が交わされる中、今後、大きな課題になりそうなのが「中小事業者」への浸透。

原資の問題に加え、情報収集や教育訓練を自社のみで行うのはとても厳しいのが現状です。身の丈に合ったシステムで取り組み、無理のない改善を重ね、少しずつステップアップを図っていくのが大切であり、1社だけで無理な場合は業界全体で支えるしくみが必要なのでは、と、小松原さん。

また、バス協会に加盟している事業者なら、そこを通じて啓蒙活動を行えますが、加盟していない事業者に浸透させていくのはとても難しい問題。

先ほど三井住友海上火災保険の大知さんから提案があったように、他業種や民間セミナーなどとタイアップし、柔軟な対応も考えたいと国交省・三上さんもおっしゃっていました。

業界全体が抱えるドライバー不足にどう対処していくか?

高齢化が進み、健康不安を抱えながらもハンドルを握るドライバーさんがいらっしゃることは事実。今後ますます健康起因事故への不安は高まっていくことでしょう。

健康起因の事故は増加傾向

しずてつジャストラインでは、高卒や専門学校卒業予定の学生で、バス運転士を目指している人達をターゲットにした「養成運転士制度」を導入。入社後は運転士以外の職種を経験しながら、普通免許取得3年後には大型二種免許を取得し、運転士教育を受けさせています。教習後は各営業所で運転士して勤務するというしくみです。

このように未経験の人を一から教育すると同時に、ワンマン運転で勤務する路線バスの運転士に対しては、いかに作業を軽減するかが課題。できるところを標準化し、安全運転に集中できる環境を整えたいとしています。

また、高齢者、女性の運転士向けに短縮勤務も可能になるような仕組みや、健康状態を本人の自己申告に頼るだけではなく、把握できるようなシステム導入も考えているそうです。

ヤマト運輸でも労働力の確保の難しさを痛感。不在で荷物を受け取れない人が年々増えており、何度も配送する手間や労力を軽減するため、宅配コインロッカーやコンビニ受け取りなどに積極的に取り組んできました。

最近、ニュースで報道されているのでご存じな方も多いと思いますが、過疎地で乗客が少なく、赤字路線になっているような路線バスとタイアップし、荷物を混載して配送するサービスもスタート。

電動アシスト付き自転車を活用した車以外での配送で、女性やシニア層へ雇用対象を広げているそうです。

臼井さんは「緑ナンバーのドライバーが、誇りをもって働ける環境整備や仕組みがほしい」とおっしゃいます。

「運転技量や無事故・無違反を客観的に評価し、転職に有利になるようなバックアップがあれば、離職率も減る」とのこと。こういう制度があれば、バスの運転士になりたい、と考える人も増えそうですね。

運輸安全マネジメント制度が導入され10年。

安全意識は向上し、トップから現場まで一丸となって安全管理体制に取り組むという風土は着実に育ち、結果をだしています。

今後はそのすそ野をさらに広げると同時に、より高い安全体制づくりに向けて努力する。そのためには、啓蒙活動だけではなく、もっと踏み込んだ支援や評価が必要なのかもしれません。

私たち利用者側もこうした事業者の取り組みを理解し、評価する気持ちを持つこと。そして、私たちが当たり前のように安全なバス旅行を楽しむ背景には、絶え間ない努力が隠れていることを知るよい機会となりました。

安全運転は一日にして成らず

■取材協力
国土交通省
運輸の安全に関するシンポジウム2016

【開催日時】平成28年10月24日(月) 13時~17時
【開催場所】昭和女子大学人見記念講堂
【講演内容】
●主催者挨拶:大野泰正(国土交通大臣政務官)
●行政からの報告:東井芳隆(危機管理・運輸安全政策審議官)
●基調講演:小松原明哲(早稲田大学 理工学術院 創造理工学部 経営システム工学科 人間生活工学研究室 教授)
●運輸事業者からの報告:
飯田則昭 (西武鉄道株式会社 取締役常務執行役員)
風間直幸(しずてつジャストライン株式会社 専務取締役)
臼井祐一(ヤマト運輸株式会社 取締役常務執行役員)
●パネルディスカッション
<コーディネーター>酒井ゆきえ(フリーアナウンサー)
<パネリスト>
小松原明哲、飯田則昭、風間直幸、臼井祐一、大知久一(三井住友海上火災保険株式会社 執行役員 商品本部 自動車保険部長)、三上誠順(運輸安全監理官)
※敬称略

【NASVA関連記事】
「第11回NASVA安全マネジメントセミナー」
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