バスの2024年問題とは?貸切バスの運転者改善基準告知について

バスの2024年問題とは?貸切バスの運転者改善基準告知について

最近、ニュースなどでたびたび取り上げられている物流業界の「2024年4月問題」。こちらはトラック運転手同様、バス運転手にとっても同じような影を投げかけています。

他の業界に比べ、ドライバーの時間外労働が長く、その労働環境を改善する目的で厚生労働省より出された「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(以下、改善基準公示)」。2024年4月1日から施行されることにより起きている問題です。

最近、路線バス・高速バスでも減便や廃止される路線などが多くなったな、と感じていませんか?

近年、ドライバーの健康起因による事故が増えている要因の一つとして長時間労働・過重労働が及ぼす影響は無視できない状況。私たち利用者側としてもしっかりと受け止めなければなりません。

今回は貸切バスを利用する際、どんな点に気を付けたらよいのか。2024年4月問題についても詳しく解説していきます。

▼貸切バスの豆知識シリーズ
貸切バスとは?
借上げバスとは?
「観光バス」とは何か?
シャトルバスとは?
貸切バスは1日何時間まで運転してもよい?
貸切バスは1日何キロまで?
貸切バスで移動する場合、休憩時間はどのように取る?
バスの貸切は何人から?

そもそも運転手1名が1日、どのぐらい貸切バスを運転してもよいのか?

バス運転手の運転基準(1日の限界)

貸切バスを利用するに当たり、1人の運転手(ワンマン運行)が1日何時間まで何キロまで運転できますよ、という基準が設けられています。また、連続して運転してよい時間(休憩の取り方)も。

以下簡単にまとめました。

  • 1日お客様を乗せて運転してもよい時間:9時間(1泊2日の場合は平均して9時間)
  • 1日お客様を乗せて運転してもよい距離:昼間は500㎞・夜間は400㎞まで
  • 連続して運転する場合の上限:4時間までで30分以上の休憩を挟む(一般的には2時間程度で15分程度の休みを入れることが多い)

今までは1年の拘束時間が3,380時間だったものが、3,300時間までになる他、1日の休息期間も継続8時間だったものが、11時間に(9時間以上は必ず確保)なります。ここでいう「拘束時間」とは、お客様を乗せていない時間や休憩時間も含むので要注意です。

  • 運転手の1日拘束時間:13時間まで(最大でも16時間を超えないことだったのが4月1日からは15時間までに)
  • 交替運転手がいる場合(ツーマン運行)の1日の拘束時間:最大19時間まで(リクライニング方式の専用座席で休憩できる、などの条件あり)

改善基準公示の見直しは、1997年(平成9年)に見直しが図られて以降、改正は行われてきませんでした。しかし、2022年(令和4年)に自動車運転者の健康確保等の観点により見直しが行われ、拘束時間の上限や休息期間等を改正。

2024年4月1日から施行される、ということになったわけです。

バス運転者の改善基準公示についてもっと詳しく≫

改善基準公示見直しによる「バスの2024年問題」とは?

時間外労働時間の改善

俗にいう「2024年問題」とは、ドライバーの時間外労働の上限が年間960時間となることで起きる様々な課題のこと。物流の適正化・生産性向上について対策を講じなければ、2024年度には輸送能力が約14%不足し、さらに、このまま推移すれば2030年度には約34%不足すると推計されているそうです(参照元:NASVA安全マネジメントセミナーより)。

しかし、ドライバー不足はトラック業界に限ってのことだけではなく、バス・タクシー運転手も慢性的に不足。また、労働時間が長い割には給料が決して高いものではなく、成り手がいないというのが業界全体の悩みでした。

つい先日、貸切バスの料金体系が変更され(2023年8月25日に国土交通省「新公示運賃基準」が公示)、実質的な値上げが図られました。こちらも運転手不足を解消し、バス会社の健全な経営を護るために行われた施策。

今度は労働時間という観点からも改善が図られた、ということになります。

路線バスや高速バス(乗合バス)を運行しているバス会社では、運行本数を減便する、利用者の少ない路線を廃止するなど、さまざまな対策を講じています。多くの乗合バスを運行しているバス会社は、貸切バスの運行が難しいというところもあるようです。

旅行会社による貸切バスの借上げで行う「バスツアー」はどんな影響を受ける?

旅行会社が主催する団体バスツアー
旅行会社がバスを借り上げて主催する団体バスツアー

日帰りや1泊2日でバスを使ったバスツアーを企画・催行している旅行会社。季節のイベントや人気の観光地を効率よくめぐる場合、貸切バスはリーズナブルでとても便利な移動手段ですね。

旅行会社が企画する団体バスツアーは、バス会社からバスを借り上げ実施されるもの。1人当たりの参加費を抑えて催行するため、主に大型観光バスを利用して企画することが多いですね。

旅行会社が企画する団体バスツアーの場合、運転手1名が運行することがほとんど。2名体制になると金額が高くなるため、日帰りなら1日10時間程度におさまる距離で考えられてきたと思います。

しかし、お客様を降ろしてから会社に戻り、安全運行のための点検・点呼(運行前後に2時間)、業務日誌を書く、バスを掃除するなどの仕事がある運転手。会社を出勤してから退勤するまでの時間として1日の拘束時間を考えると、運行時間9時間でもかなり厳しいという状況です。

これまで日帰りで訪れていた観光地に行くのが難しい、立ち寄り先を減らすなどの工夫が必要となります。去年まであったバスツアーが今年はなくなった、1泊2日に変更されたということも増えてくるのではないでしょうか。

個人や企業、自治体等で運転手付き貸切バスをチャーターする場合、何に気を付けるべき?

個人でバスを借りる場合の注意点
(撮影協力:アルモニア)

貸切バスは便利な移動手段として、私たちの身近な足。最近では旅行会社を介さず、バス会社から直接バスを借りたいというお客様が増えてきました。

貸切バス運行のルールがいま一つわからない、という方も多いかと思いますので以下、注意しなければならないポイントをまとめました。

  • 貸切バスをバス会社から借りる場合は必ず「運転手付き」で借りなければならない
    運転手なしの場合は、レンタカー会社から「小型マイクロバス」までの大きさならバスだけレンタル可能
  • 貸切バス料金バスを走らせた距離と時間で計算される
    ※この場合、安全点検のための2時間(運行前後)も料金に含まれる
  • 貸切バスの利用は最低3時間から(短時間利用についてはこちら≫
    ※30分や1時間であっても3時間利用で、安全点検のための2時間を含めて5時間で計算
  • バス会社はバスを運行するのみ、旅行プランは利用者が自分で考えるか、旅行会社にまとめてお願いすること
    ※駐車場やホテル、観光施設の予約などは「旅行手配」にあたるため、旅行会社でないとできない(バス会社が旅行会社を兼ねているケースもあり)
  • 貸切バスの利用時間は1日9時間を超えないように調整する(運転手2名体制の場合でも15時間程度まで)
  • 貸切バスの移動距離は1日500㎞を超えない(夜間は400㎞まで)ように調整する
  • 4時間ごとに30分以上、できれば2時間ごとに15分程度の休憩を入れる

移動距離や時間は「ナビタイム」や「Google map」を利用すれば簡単に計算できます。この場合、目安時間は一般自動車を利用した場合です。

バスの場合は時間がかかるため、目安時間約1.25倍にするとよいといわれています。移動時間にはできる限り余裕を持って計画するようにしましょう。

ゴルフ場の送迎やスキー・スノボ送迎のように深夜・早朝運行はどうなる?

ゴルフ送迎など早朝運行の注意点

ゴルフ場への送迎は貸切バスがとっても便利。特に早朝からプレイする場合、公共の交通機関だと移動できないことがよくあります。

例えば、ゴルフコンペで朝8時からスタートしたい場合、7時までに到着したいので出発が5時というのがよくあります。ラウンドを終えて18時頃ゴルフ場を出発するとなると到着は20時。1日の運行時間は15時間、運転手の拘束時間は17時間を越えてしまうことに。

以前は「分割休息(休息期間の特例)」が認められており、ゴルフ場についてから運転手が横になって休めるホテル等の部屋を用意することで、1人の運転手で送迎してもよいとなってきました。

しかし、改善基準公示の見直し後はバスの運行から次の運行まで、「11時間以上連続して休息できること(9時間を下回らない)」となっており、かなり厳しいと言わざるを得ません。

スキー・スノボー送迎の場合も同様で、日帰りや夜行での送迎は断られる場合がありますので、要注意です(運転手2名体制なら可能の場合もあり)。

交替運転手(ツーマン運行)がいる貸切バス利用の場合は?

ツーマン運行でも長時間OKなわけではない

運転手1名だと法令違反になってしまう距離・時間の移動はどうなるのでしょうか。特に東京・大阪などを運行している高速バスの場合、運転手2名で運行しているケースが多々あります。

貸切バスの場合でも交替運転手を配置し、2名体制で運行することで1日に走らせる距離・時間を少しだけ延ばすことは可能です。とはいえ、運転手1人が運転してよい9時間×2名=18時間ではない、ということ。

会社に出勤してから退勤するまでの時間(拘束時間)は最大で13時間。2名勤務であっても19時間まで。たとえ運転手が2名いてもお客様をバスに乗せてから目的地で降ろすまで、最長で14~15時間を越えてはならないと認識しておきましょう。

見積り依頼をしたときに「見積りが出せる」となっていたバス会社から、運行を断られるケース

バス会社から見積りが出せないといわれるケース

「貸切バスの達人」から見積りを出したのに、バス会社から「見積りが出せない」「バスは空いているけれど運行できない」と断られてしまったというケースがたまにあります。

どうしてそのようなことがあるのでしょうか。理由の一つとしては見積りを依頼したタイミングで、バスの予約が埋まってしまったというケース(電話等で直接、バス会社に予約が入ることもあります)。

そしてもう一つは、バス運転手の勤務時間と大きく関係があります。以下、運行を断られてしまいがちなケースです。

  • 運転手1名で運行できない時間・距離の場合
  • 深夜早朝運行で交替運転手がいない
  • 夕方から深夜までの利用(翌朝予定しているバスの運行時間まで11時間以上の連続休憩が確保できない)

いずれの場合でも運転手不足のため、対応できる運転手がいない、交替運転手を確保できないことも影響しています。

例えば夕方の17時に戻ってくるはずだったのに渋滞や天候不良で帰庫(バス会社に戻る)が20時になってしまった、ということもあります。こういうケースを見越して多少の残業はやむなし、という基準にはなっていますが、それはあくまでも例外。

お客様からよく「当日運転するドライバーの連絡先を早く教えて欲しい」という要望をいただくのですが、最速で前日の連絡、場合によっては当日変更することもあります。それは、やむを得ない事情で前日の拘束時間を越えてしまったため、急遽別のドライバーに交替、というケースもあるからです。

以前よりも運転手の時間外労働が厳しくなったことで、今後はますます「その条件だと運行できない」「ドライバーが決まるのが遅い」というケースが増えていくかもしれません。貸切バスをより安全に健全に運行するための措置としてご理解いただければと思います。

貸切バスの運転者改善基準告知でより安全に!利用者の理解と協力も大切

観光バスとは?高速バスとの違い

公共の交通機関は私たちの生活になくてはならない大切な移動手段。路線バスは朝早くから夜遅くまでほぼ毎日、時間通りに運行されています。

高速バスも遠く離れた都市間を結ぶ安価な移動手段。貸切バスにおいても、合宿や試合の送迎、冠婚葬祭の送迎、個人で楽しむ観光旅行など、さまざまな場面で活用されています。

路線バス・高速バス(乗合バス)も貸切バスも運転するのは人間。自分自身でハンドルを握る人なら、1日に限界を超えて運転する危険性はよく理解できるのではないでしょうか。

「1日だけなんだから無理してもいいじゃないか」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、その運転手さん、翌日も、また翌日も運転するという予定が入っています。

まして鉄道とは異なり、道路は事故渋滞や工事渋滞、気候変動による通行止めなどがあるなど、めぐるましく事情は変化。通常なら1時間で移動できる距離も2時間、3時間かかる、なんてことも珍しくありません。

貸切バスをこれからも安全に、便利に利用するためにも、法律で決められたルール・マナーを守って利用したいものです。2024年4月1日の改善基準告示後は、いままでOKだったバスの運行ができなくなる可能性がある、ということをご理解くださいね。

バス運転者の改善基準公示後の注意点

  • 毎年同じ条件で運行していたバスツアー(送迎)が断られる可能性がある
  • 運転手1名で運行していたのに、2名じゃないとダメといわれる可能性がある
  • 条件によってはバスの運行を断られるケースがある
  • 当初決まっていた運転手が当日変更になる場合がある

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この記事を書いた人
ちくわ

旅行メディア編集長兼ライター、総合旅行業務取扱管理者、旅行会社勤務経験あり、目黒区ボランティアガイド見習い中。プライベートでも古代史オタクとして年に数回フィールドワークに出かける旅好き。時々バス愛がさく裂!?

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