飲酒運転や事故の下げ止まりを打破せよ!「第16回NASVA安全マネジメントセミナー」

飲酒運転や事故の下げ止まりを打破せよ!「第16回NASVA安全マネジメントセミナー」

2023年10月16日(月)、NASVA(独立行政法人自動車事故対策機構)主催の「NASVA安全マネジメントセミナー」を取材してきました。

交通事故遺族の方や日々努力する事業者さんたちの生の声を聞くことができるとても貴重な機会。

ダイジェストで当日の様子をお伝えしていきます。

2025年(令和7年)までに達成すべき交通事故削減目標とは?

NASVA理事長である中村晃一郎さん
中村晃一郎NASVA理事長

NASVA理事長である中村晃一郎さんによる冒頭でのご挨拶で「交通事故は減少傾向にあるものの、飲酒運転や事故で重度の障害が残るケースはほぼ横ばいとなっている」という問題提起がありました。

皆さんもご存じの通り、国土交通省が発表した「事業用自動車総合安全プラン2025(以下、2025プラン)」の中で2025年(令和7年)までに達成すべき目標は以下の通り。

事故削減全体目標

  • 24時間死者数225人以下、バス、タクシーの乗客死者数ぜロ
  • 重症者数2,120人以下
  • 人身事故件数16,500件以下
  • 飲酒運転ゼロ

各業態の個別目標

  • 乗合バス:車内事故件数85件以下
  • 貸切バス:乗客負傷事故件数20件以下
  • タクシー:出会い頭衝突事故件数950件以下
  • トラック:追突事故件数3,350件以下

飲酒運転や健康起因事故は依然として発生しており、今後迎える超高齢社会に向けたユニバーサルサービス連携強化を踏まえた事故防止対策が重要であることを強調されていました。

初の対談形式で行った【国土交通省×警察庁】基調講演

国土交通省物流・自動車局長である鶴田浩久さん
鶴田浩久 国土交通省 物流・自動車局長によるあいさつ

来賓者である国土交通省物流・自動車局長である鶴田浩久さんからのあいさつに続き、国土交通省大臣官房審議官と警察庁長官官房審議官による対談形式で基調講演が行われました。

国土交通省大臣官房審議官と警察庁長官官房審議官による対談形式で基調講演

日頃から事故防止に取り組む各省庁が連携していることをわかりやすくお伝えする初の試みとなります。

警察庁がまとめた昨今の交通事故の傾向、半分を占めるのは対歩行者・自転車との事故

まず最初に警察庁長官官房審議官・小林豊さんより、交通事故の現状についてのお話。

警察庁長官官房審議官・小林豊さん
警察庁長官官房審議官・小林豊さん

「2025プラン」に基づき世界一安全な道路交通実現を目指している日本では、人口10万人当たりの交通事故死者数(2021年)において、世界で7番目に少ないというデータがあるそうです(IRTAD資料による、30か国のうち)。

最も少ないのがノルウェーで1.5人、日本は2.6人。また警察庁がまとめた「事故類型別人口10万人当たり交通死亡事故発生件数の推移」によると、全体的に減少傾向にあるものの、正面衝突等は増加、歩行者横断中や人対車両その他は微増もしくは横ばい傾向です。

「事故類型別人口10万人当たり交通死亡事故発生件数の推移」

事故の半分を占めるのは歩行者や自転車との事故。前方不注意による衝突、横断歩道等を渡る歩行者妨害による違反などが多い傾向にあるそうです。

事業用自動車の違反別交通死亡事故件数(警察庁)
「第16回NASVA安全マネジメントセミナー」より

確かに私自身、横断歩道を渡ろうとしているのに一時停止も徐行もしない一般の自動車がなんて多いのだと痛感していました。また、信号無視、歩行者無視して好き勝手走る自転車も多く、轢かれそうになったこともしばしばです。

私自身もハンドルを握りますが、年齢とともにとっさの判断に遅れが生じたり、認知機能が落ちていることを実感。余裕のない運転は事故につながると不安に感じているところです。

事業用自動車は減少傾向にあるものの、相変わらず飲酒運転がなくならないことも懸念点。

飲酒運転死亡事故件数の推移(警察庁)
「第16回NASVA安全マネジメントセミナー」より

コロナ禍で外出を控えてきましたが、最近は人通りが戻りつつあることも影響しているのでしょうか。本年度9月末までの交通事故件数は同期比で増加傾向にあるので注意が必要です。

このままいくと年度末には増加してしまうかもしれませんとおっしゃっていました。

2022年には高速バス・貸切バスで大きな事故が発生

国土交通省大臣官房審議官(物流・自動車担当)の住友一仁さんからの発表

続いて国土交通省大臣官房審議官(物流・自動車担当)の住友一仁さんより、現状についてのお話です。

直近で高速バス・貸切バスで大きな事故がありました。高速バスは名古屋高速道路で2022年8月に大型バスが横転・炎上。9人が死傷しています。

ハンドルを握っていたのは路線バスを9年近く担当してきたベテランドライバー。残念なことに事故原因はドライブレコーダーが焼失してしまった関係で究明が困難に。

ただ、違法な時間外労働を行わせていたという疑いがあり、労働基準法違反容疑で営業所長と運行課長が書類送検されました。

もう1件は静岡県小山町の県道「ふじあざみライン」で、観光バスが横転し、29人が死傷した事故。バスのブレーキには焼けた跡、一部は溶けていたなど、ブレーキを踏み続けたことによる「フェード現象」が指摘されました。

折しも全国旅行支援などでバスツアーのニーズが高まっていたこともあり、バスの運行要望が多かった、という背景も無視できないのではという指摘も。

バスは1回の事故で大勢のけが人を出す
画像はイメージです

今回のドライバーはまだ26歳で、大型バスの運転経験が豊富ではなかったといいます。その点も軽井沢で起きた事故と共通する点を感じました。

安全を守り、維持し続けることは簡単なことではなく、ハンドルを握るドライバーやバス会社はもちろんのこと、仕事を依頼する旅行会社や利用者、荷主も一体となって取り組まなければならない。

冒頭で国土交通省物流・自動車局長である鶴田浩久さんがおっしゃっていた言葉を痛感するような出来事でした。

国土交通省では静岡県で発生した貸切バスの横転事故のような悲惨な事故が起きないよう、貸切バスの安全性向上に向けた新たな対策を検討。

旅客自動車運送事業運輸規則(昭和31年運輸省令第44号)の改正等を行いました。以下が概要です。

  • 輸送の安全に係る書面及び記録の保存期間の延長等
  • 録音及び録画による点呼記録の保存の義務付け
  • アルコール検知器使用時の写真撮影の義務付け
  • ディジタル式運行記録計の使用の義務付け
  • 安全取組の公表内容の拡充

2023年10月18日(水)にも奈良県橿原市の国道で、小学生や教員を乗せた貸切バスが交差点を直進しようとしていたところ、右折してきた自家用トラックと衝突。貸切バスの乗客16名(小学生15名、教員1名)が軽傷を負っています。

事故の教訓を風化させることなく、気を引き締めていかなければなりません。

飲酒運転管理義務付けが、自社の荷物を運ぶ「白ナンバー」にも

飲酒運転管理義務は白ナンバー車にも

2021年に千葉県八街市で飲酒運転のトラックに小学生5人がはねられ、2人が死亡、3人が大けがを負う事故がありました。ドライバーは日常的に飲酒運転をしていたことが明らかに。

酒気帯びの有無を厳しく取り締まり

事故を起こしたトラックが自社の荷物を運ぶ「白ナンバー」だったことから、乗務前後の飲酒検査の義務がありませんでした。この事故を受け、車両台数が5台以上、乗車定員が11人以上の車を保有している事業者にはアルコールチェックを義務化するとの改正案が出されています。

実は飲酒運転で摘発されるケースは後を絶たず、法律を改正しても完全に防げるとはいいがたいのが現状。

ゾーン30の設置

警察庁では、事故の危険性が高い通学路周辺では時速30㎞に制限する「ゾーン30」の設定や速度超過・歩行者の通行妨害への取り締まりを強化するなど、対策をすすめているそうです。

また、この他にも道路管理者による物理的デバイスの設置(路面を盛り上げて速度抑制対策を行う、車道の通行部分を局所的に狭くする狭窄など)と組み合わせて「ゾーン30プラス」として対策中。

国土交通省と連携しながら対策を強化しているそうです。

まったなし「物流の2024年問題」への対応

物流の2024年問題

物流の2024年問題」とは、2024年4月からトラックドライバーの長時間労働の改善に向け、トラックドライバーの時間外労働の上限が年間960時間となることで起きる様々な課題のこと。

物流の適正化・生産性向上について対策を講じなければ、2024年度には輸送能力が約14%不足し、さらに、このまま推移すれば2030年度には約34%不足すると推計されています。

最近では特に小口輸送業者が急増しており、軽自動車の貨物自動車による事故が倍増しているとのこと。安全対策の強化も必要な状況です。

国土交通省では健康起因や過労運転を抑制するためにも、睡眠状況をチェックできる先進機器の導入、安全教育を行うための補助金制度などにも取り組んでいるとおっしゃっていました。

また、NASVAでも自動車アセスメント、ドライバー適正診断などを実施。先進機器と組み合わせた事故対策・安全管理をサポートしています。

各事業者からの危険個所の情報提供をお願いしたい

警察庁では大きな事故が起きた場合、国土交通省へ調査結果を共有するなど、つねに連携を図っています。しかしながら、すべての危険個所を把握するのは厳しい状況。

できれば、各事業者さんが日頃目にしている危険だと感じる箇所、実際にひやりとした場面などについて情報提供してほしいとのことです。事故を未然に防ぐためにも、ぜひご協力ください。

万が一事故を起こしてしまったら、さまざまなサポートがあります

重度後遺障がい者数は横ばい

警察庁でもNASVAでも、事故を起こした場合の救済などさまざまな支援を用意しています。交通事故で死亡する方は減少傾向にありますが、重度な障害を負って苦しむ方はほぼ横ばい状況。

国土交通省では被害者保護増進等事業に関する検討会において、これまで「当分の間の措置」と位置付けられてきた自動車事故対策事業について、恒久的な事業に見直していくことになっています。

NAVAのケアが手厚い

また、NASVAの療護センターなどのように、重い後遺症が残った場合に特化したケアが受けられる施設も。NASVAによる交通事故被害者ホットラインによる相談窓口もありますので、万が一の場合はぜひ活用してほしいとのことでした。

どんなにプロであっても事故を起こしてしまう可能性はあります。自分は大丈夫と過信することなく、事故のない社会を目指して気を引き締めて欲しいとおっしゃっていました。

特別公演「交通事故遺族の願い~家族の命を伝える~」

特別公演「交通事故遺族の願い~家族の命を伝える~」

「第47回NASVA安全マネジメントセミナー」の特別公演に登壇されたのは、一般社団法人関東交通犯罪遺族の会(通称:あいの会)副代表理事である松永拓也さんです。

松永さんは皆さんご存じのとおり、“池袋暴走事故”で奥様と3歳の娘さんを亡くされたご遺族の方でもあります。

メディアやSNSなどでさまざまな情報が錯そうし、ご本人が意図しない言葉が独り歩きするなど、大変辛い思いをされたこともあったのではないでしょうか。

今回の講演で松永さんご本人から「交通事故遺族」として経験した途方もなく辛い体験、1人でも同じ体験をされる方を亡くしたいと活動されていることなどをできる限りお伝えしたいと思います。

交通事故被害者・遺族の“リアル”を知ってほしい

交通事故遺族のリアルを知って欲しいと活動中

松永さんご自身、実際に「交通事故遺族」になるまで、被害者の気持ちを自分のこととして感じることはなかったそうです。

免許更新で交通事故のビデオなどを目にしたり、ニュースなどの報道を目にしていてもどこか他人事で、交通事故に関する“数字”を見てもリアルさがなかったといいます。

しかし、実際にご自身が「交通事故遺族」になり、加害者となるとどうなるかは比較的伝えられているが、被害者になるとどうなってしまうのかをしっかりと伝えられていないのではないかと感じたそうです。

結婚・出産を通じて、命の尊さ、愛おしさを感じた

お子さんも生まれて幸せな日々

松永さんと奥様の真菜さんは沖縄と東京の遠距離恋愛。2015年に結婚し、2016年に娘さんの莉子さんを授かります。

真菜さんと結婚することで「持病を克服し、心も成長させてもらった」「彼女の生き方や人柄が憧れであり道しるべだった」と松永さん。

莉子さんが生まれた時に、小さな手が松永さんの指を握りしめたときの瞬間、やわらかくてあたたかなその温もりに”命あること”の意味を実感したといいます。

普段は歩いていくのに、事故の日だけ自転車で出かけた真菜さんと莉子さん

事故の日だけ自転車で出かけた奥様とお子さん

当たり前のように幸せな日々。その毎日が一変してしまうような事故が起きます。

いつもお昼休みにLINEでたわいのないやり取りをするのが習慣だった松永さん。真菜さんから「自転車に乗って公園へ出かけているから電話にでられないかも」というLINEが入ります。

その後、14時頃に突然警察から「ご家族が事故に巻き込まれた」と連絡が入ります。混乱する頭、ネットニュースでの報道を見てパニック状態に。

警察署に向かう途中、あまりの衝撃で腰が抜けたような状態になり、その時の記憶はあまりないそうです。

消えた命、絶望の中で再び立ち上がるまで

病院に着いた時、被害者支援をしている方が付き添ってくれてお2人に対面した松永さん。ただただ泣き叫ぶことしかできなかったといいます。

莉子さんの損傷があまりにもひどく、対面をしない方がよいともいわれたそうです。

あの温かくて柔らかった手が、固く冷たくなっているのを握りしめ“命”が永久に失われてしまったことを痛感したそうです。

その後、ご遺体とともに自宅に戻った松永さん。このまま生きていても意味はないのではと死のうとした時、2人の声が聞こえた気がするといいます。

自分がこの先生きていく意味。それはお2人の死を無駄にしないことです。

松永さんがメディアの前で会見を行い、お2人の写真を公開する決心をした経緯は、同じような体験をする方が無くなって欲しいという思いから。

松永さんが再び立ち上がるまで

一生懸命に生きた若い女性、わずか3年しか生きることができなかった小さな命が確かにあったことを現実として感じて欲しい。命を知ってもらい、交通事故はそれを簡単に奪ってしまうことを強く伝えたかったからです。

「人間の意識」だけでは事故は防げない。それでも「意識ひとつで防げる事故」はある。加害者にならないためにも、被害者の現実を知って欲しいとおっしゃっていました。

記者会見を行った結果、自分が意図したことは一部しか報道されず、そのことが松永さんをさらに傷つけてしまう結果になってしまったのはとても残念なことでした。

交通事故遺族が直面する厳しい現実

精神的・身体的に大きな影響を受けることは誰でも想像がつくこと。松永さんご自身、不眠や事故を知らされた時間になると手が震え、パニックを起こしそうになることを経験しました。

また、2人の顔や声を思い出せなくなることも。心が壊れてしまわないように脳がそのような指令を出すことにも戸惑いを感じたそうです。

金銭的な負担の大きさにも悩まされました。松永さんが「家計を担う人」であり、沖縄移住を計画していた貯蓄があっため、「国選弁護制度」「犯罪被害給付制度」の対象外になるなど、生活に困窮。

フラッシュバックなどの精神的な不調、事故の捜査協力や裁判への参加で仕事を欠勤せざるを得ない時間的な負担も拍車をかけます。

また、噂・誹謗中傷・報道被害も。「前向いて生きていくべき」「悲しんでいては2人が浮かばれない」など、当人は“善意”で声をかけているつもりでも、被害者の立場としてはどうしたらいいのか困惑、混乱し、むしろ追い詰めてしまうものかもしれません

頑張り過ぎてうつ病になっている人に「がんばれ」といってしまうのと同じことなのです。

あいの会の代表から声をかけてもらい、自分のやるべき道が開けた

松永さんの活動が実を結ぶ

松永さん自身、交通事故被害者となり、初めて支援してくれる団体があることを知ったといいます。

2019年にはあいの会の仲間たちと当時の国土交通省大臣へ要望書を提出。「交通事故被害者ノート」の作成と運用を発案・実現したそうです。

交通事故被害者ノード
交通事故被害者ノート

遺族たちは交通事故の経緯などをさまざまな場所で、繰り返し説明することが求められてきました。そのたびに遺族が直面する心の負担を軽減するため、事故の経緯を記したノートを作成することで、共有が簡単にできるようにしたそうです。

高齢者のドライバーだけではなく、すべての方に必要な「NASVA運転者適正診断」

松永さんというと、高齢者ドライバーの運転で被害にあわれた方というイメージが付きまといます。しかし、高齢者だから運転が不安ということではないといいます。

高齢者であれば、運転技術がありベテランである一方で、認知機能の衰えや身体的な能力の低下という問題が出てくる。若年者であれば未熟な経験と技術が問題になる。

大切なのは客観的に自分の運転技能を見直すことなのではないかとおっしゃっていました。

そのためにNASVAの運転者適正診断が役立つし、その結果を決して軽視せずに向き合ってほしいとのこと。

また、NASVAなどの民間は精神的な支援を行っていること、国などの公的機関は物理的な支援を行っていることをもっと大勢の方に知って欲しいそうです。

松永さんご自身、交通事故遺族になるまで知らなかったとのこと。現在、あいの会とともに遺族者支援活動を主軸にしつつも、交通事故撲滅活動、支え合いの3本柱で活動を続けていらっしゃいます。

被害者にも加害者にもなって欲しくない。交通事故による被害者が無くなるまで松永さんの活動は続いていきます。

車内で安全運転に関する研修をされる際、ぜひ講演をお願いしてみてはいかがでしょうか。

Information

あいの会(一般社団法人 関東交通犯罪遺族の会)

輸送の安全を高めていくための各事業者の取り組み事例(1)広島電鉄株式会社

広島電鉄株式会社の事例紹介

広島電鉄株式会社は、鉄道や軌道事業、バス事業などを行っている事業者。特に路面電車では営業距離、車両数、利用者数のいずれも日本一といわれる規模を誇ります。

バス部門ではグループ会社を含め約740両を所有し、営業所や車庫が点在。無人の車庫が多いため、以前から電話による点呼を行ってきたそうです。

また、運行管理者のほとんどがバス運転士出身。路線バスが大半を占め、朝ラッシュ前の30~60分間に点呼が集中するそうです。

コロナ禍で売上が減少、安全性・確実性の向上と管理コストを抑える目的で点呼のIT化を推進

広島電鉄 執行役員 バス事業本部長
玉田和さん

遠隔点呼や点呼支援システム導入のきっかけは、運行管理の高度化に向けた実証実験への参加がきっかけとなったそうです。現在、広島電鉄・広電グループでは遠隔点呼を実施。グループ会社間の点呼は実施していないが、今後は検討していきたいとのこと。

当初は生体認証を使ったログインを行ってきたのですが、車庫の場所や陽射しの入り方でエラーになりログインできない事例もあったそう。このため、現在では顔認証と静脈認証両方を併用して運用しているそうです。

ドライバーは体温、体長、睡眠時間などをセルフで登録。その後、運行管理者とビデオ通話でセルフチェック内容を確認しつつ、顔色や声色などを見ながら確認を行います。

IT化したことで登録した体温や睡眠時間などをデータとして蓄積。グラフなどで可視化することで個人差も把握できるようになったそうです。

過去には運転させてきたような場合でも、乗務交替を告げる場面などがあり、実は無理をさせてきたのではないかという気づきがあったとおっしゃっていました。

紙の台帳管理だったときに比べると、事故歴や指導監督記録、健康診断、適正診断履歴等を営業所をまたいで共有できるようになったのがメリット。目測ではなかなか判断できないようなことも、デジタル化によりきちんとはあくできるようになったそうです。

点呼のIT化におけるメリット、デメリット

点呼IT化によるメリット・デメリット

運行管理者が点呼に要する時間を短縮することができたことで、余裕をもってドライバーの状態を確認、フォローできるようになったのがプラス点。

そして最も効果が上がったと痛感したのが、対面点呼と遠隔点呼のハイブリッドが実現できたことなのだそう。

従来は、点呼業務を行いながら、事故・トラブル対応を行う必要がありました。また、事故・トラブルに備えて深夜まで複数人体制で運営してきた営業所も。

点呼のハイブリット化により、小規模営業所でも事故やトラブルの対応力が向上。落ち着いている営業所が対応することで、丁寧な点呼が可能に。

必要度に応じた柔軟な体制が組めるようになり、運行管理者が働きやすくなったのが最大のメリットだそうです。

一方でデメリットも。というのも、システムトラブルが起きた時の対応力が問題に。運行管理者のほとんどがドライバー出身ということでITリテラシーが低いということがあげられるそうです。

朝ラッシュ時など点呼が集中する時間帯にシステムトラブルが起きやすく、発生すると混乱してしまケースがあったそうです。今後、システムトラブルへの対応力をいかに向上していくかが鍵となりそうです。

IT化による内勤ポストの減少、コミュニケーション機会の減少をどうするかが課題

今後の課題として上げられるのは、IT化により内勤ポスト(単純作業が少なくなる)の減少が見込まれること。ドライバーから運行管理者といったキャリアパス以外にも、企画業務や接客業務など、さまざまな可能性を提示していきたいとおっしゃっていました。

また、点呼をIT化することで人間関係が希薄になるのではないかという懸念があります。何気ない会話に潜む悩みや不安などを見逃さないようにするために、どうやってコミュニケーション機会を作るか、人間関係を育んでいけるかが課題と感じているそうです。

輸送の安全を高めていくための各事業者の取り組み事例(2)八王子交通事業株式会社

八王子交通事業株式会社

タクシー・ハイヤーで八王子を中心に80余年の歴史を誇る八王子交通事業株式会社。事故防止、交通安全・無事故に向けた車内風土の改善について発表がありました。

安全運行に向けた施策について「見える化」を進めるために、社内掲示やアナウンス、幟の設置の他、SNSを使って積極的に配信を行うようにしているとのこと。社員が参加しやすい「交通安全川柳」の募集や毎日の目標を記入するなど、日々工夫を行っているそうです。

事故状況を把握し、ハザードマップ・ヒヤリハットを共有

ハザードマップ・ヒヤリハットを共有

事故状況の割合は単独事故が60%、加害事故18%、被害22%。その中で注意案件を重点施策として対策を行っています。

その中で浮き彫りになったのは、無線配車やアプリ起因による事故。お客様を待たせてはいけないという焦りから、安全確認不足による事故を起こしているケースも。

また、地図アプリのナビゲーションが道順、経路に無理があるケース(不正確)もあるそうです。

加害事故としては、信号機のない交差点で自転車と接触、自転車の無謀運転による接触事故など、マナーやルールを無視する自転車が増えているとのこと。タクシー側での一時停止不履行や漫然運転と重なると、事故につながることがわかったそうです。

これまで、ヒヤリハットの共有が足りなかったということで、実際に事故を起こした場所も含めたハザードマップを作成。ドラレコの映像と合わせて、地図や写真、コメントを入れて、安全運行を行うための「見える化」を行っています

事故を起こした場合は、本人にレポートを作成してもらい、ドラレコ映像と合わせた検証を行う「事故防止特別講習会」を実施。意見交換や事故要因の特定、再発防止策の検討までをセットに年2回、ミーティングを行っています。

最近では路上横臥、寝込みによる事故回避で警察から表彰されたこともあるという八王子交通事業。中には国道16号で寝込むツワモノまでいたそうです。

路上横臥、寝込みによる事故回避

こういったケースも見逃さず、警察に連絡し、ケアしてもらうところまでをセットとして対応。すでに6~7例あり、協会ポスターで注意喚起を促しているそうです。

アプリ配車からの情報収集、お客様からのフィードバックを活かす

アプリ配車のユーザーレビュー活用

配車アプリを導入したことで、お客様からの評価が「見える化」できるように。不満評価についてはドラレコの画像判定を実施し、必要に応じて面談も行うようにしているそうです。

しかし、配車アプリにも問題点があります。先ほどご紹介したように、ドライバーの焦りから事故を誘発する可能性があること。また、不正確なナビルートによる事故や誘導ミスでお客様を見つけられない、決済機がトラブルを起こすなどがあげられます。

メリット・デメリットはあるものの、励みになる部分もあるので、今後の改善に期待したいというところでしょうか。

今後力をいれたいのはユニバーサルドライバー研修

ユニバーサルドライバーとは高齢者や障がい者など、すべてのお客様に対し、快適に安全にタクシーを利用していただけるよう、接遇や介助を適切に行えるよう研修を受けた運転士のこと。

社内に有資格者がいることから、フレキシブルな研修を行っているそうです。現在では94%の乗務員が研修を受けているとのこと。

ユニバーサル社会の実現に向けて、タクシー業界ができることを考え、積極的に取り組んでいるそうです。

この他、高齢ドライバーの安全教室、AED取り扱い講習、メンズ・カーブス(男性専用のスポーツジム)健康測定会、認知症サポーター養成講座などの各種研修会も行っています。

健康管理のフォローアップ充実、女性活躍機会の創出

健康起因事故をなくす対策

八王子交通事業では健康起因事故による対策として、出庫前体調管理、健康診断、脳ドッグ、SASを実施。健康診断で問題のある乗務員に対し、再診フォローもスタートさせました。

なかなか進まなかったそうですが、積極的な声掛けや健康起因事故例の共有などを続け、100%の医師の初見を得るのに成功。健康に問題がある乗務員へのフォローを強化することができました。

また、女性が活躍しやすい職場づくりのため、女性専用者も導入。広報や啓蒙活動にも積極的に取り組んでいるそうです。

女性ドライバーの活躍を応援

ドライバー不足の折、なかなか人材を集めることは容易ではありませんが、社員全員でSNS発信に取り組むなど、活動を続けています。

輸送の安全を高めていくための各事業者の取り組み事例(3)キユーソーティス株式会社

キユーソ―ティス株式会社

最後の事例紹介はキユーソーテイス株式会社です。調布市に本社のあるキユーソーテイスは、食品物流を事業の柱としています。

生産地から消費地まですべての流通過程にITを活用した食品流通システムの全国ネットワークを構築。冷凍から定温まであらゆる温度帯に対応しています。

物流については前述の2024年問題が影を落としていますが、中でも食品物流はトラックドライバーの労働時間の長さが問題に。その他の物流業界と比べると、30分以上長時間労働を行っているそうです。

食品物流はドライバーの労働時間が長い

理由としては、荷役時間(搬入の待ち時間など)、運転時間が長いということがあげられます。また、昨今の自然災害甚大化で、物流の混乱も問題に。安全対策や環境問題への取り組み、人材の確保などについて発表がありました。

ウェザーニューズとの法人契約で、災害対策の確度をアップ

ウェザーニューズとの法人契約で、災害対策の確度をアップ

2023年にも大雪や大雨による自然災害の影響で物流の混乱がありました。テレビやネットニュースでの情報収集は限界が来ています。

精度の高い天候予測や道路状況を把握し、安全最優先の運行計画を構築する必要があると判断。予測されるリスクに備えて、従業員の安全・安心の確保、得意先へのサービス向上へとつなげていくために、2019年から株式会社ウェザーニューズ社と法人契約を結んでいます。

ウェザーニューズ社からの情報提供を基に輸送影響度を予測。365日24時間、電話によるコンサルティングが受けられるため、計画運休やルート変更などの判断が行えるようになったそうです。

災害発生前の準備ができることで、取引先への説明や相談も容易に。理解が得られるようになったことで、ドライバーの安全を守ることができるようになりました。

ドライバーズコンテストの実施など、事故削減に向けた施策多数

安全はあるものではなく、創り上げていくもの

事故削減に向けた様々な取り組みを実施しているキユーソ―ティス。自動車両映像を使った危険予知トレーニング、自社の事故動画を各営業所にデジタルサイネージで流す(オンタイムで共有できる)、指導者のレベルアップを目的とした研修、ドライバーズコンテストの実施などを行っているそうです。

ドライバーズコンテストは全国を9つのブロックに分けて予選会を実施。全国大会へ挑戦できるドライバーを選出します。

上位3名が表彰台に上がり、第1位を獲得したドライバーは海外研修をプレゼント。パートナー企業も参加し、一緒に盛り上げています。

また、日々のちょっとした取り組みとしては、菓子パンやドリンクにメッセージを付けてドライバーに出発前に手渡しするなど、絶え間ない安全意識の向上にも気遣っているそうです。

SNSの活用で若手ドライバーのリクルートに成果

SNS活用で人材確保に成果

2024年問題に関しては、SNSを積極的に活用した採用アプローチを実施中。Instagramでは若い世代へのアピールを意識し、視覚的に会社の魅力をアプローチするようにしています。

また、YouTubeで定着率の向上を図るため、職場でのリアルな雰囲気を伝えるような若手ドライバーの座談会、仕事紹介、ドライバーズコンテストの様子などを配信。

YouTubeチャンネルも実施

かつてホームページでは閲覧のみにとどまり、実際の応募はほとんどなく、入社してもすぐ辞めてしまうという状況でしたが、SNSの活用により採用数アップや定着化に貢献しているそうです。

また、社内に元プロカメラマン、元YouTuberなどの人材を発掘することができたということ。社内コミュニケーションの活性化に繋がり、従業員のモチベーションアップにもつながっているそうですよ。

持続可能な長距離輸送への挑戦「リレー輸送」

リレー輸送で持続可能な長距離輸送を可能に

今回の事例発表の中で、特に感銘を受けたのがこの「リレー輸送」でした。

キユーソ―ティスでは、全国3拠点を活用し、東京~九州間・長距離リレー輸送を実施しています。静岡営業所・広島県西条営業所に所属する車両で運行。

昼夜ドライバー交替方式で静岡営業所を拠点に東京、兵庫県西宮市へ日帰り運行します(西条営業所もそこを拠点に九州と兵庫県西宮市へ日帰り運行)。

リレー輸送は日帰りを組み合わせて輸送

兵庫県西宮市でトレーラーヘッドとトラクターを交換して、折り返すという仕組み。東京と九州で同時刻に出発することで、止めない運行計画を構築。片道22時間、翌日着を可能にしています。

このことにより、止めない、泊まらない長距離輸送を実現。CO2 排出量を抑え、働き方改革も実現したことで令和3年度グリーン物流パートナーシップ会議において、物流構造改革表彰を受賞しました。

さらに列車輸送をモデルとした長距離リレー輸送(ドライバー交替、海上運送、トレーラー交換)によるモーダルミックス(各交通機関の特性を生かして連携し、効率的な輸送体系を作ること)マルチリレー輸送も行っています。

モーダルミックスマルチリレー輸送

ドライバー1人で片道100㎞程度、往復で200~250㎞の運転に抑えることで、運転と作業に集中できる環境づくりを構築。事故防止、健康維持、個々の能力発揮に繋がっています。

また、運行時間を10時間に設定することで、昼夜の2回転運行を実現。コストアップや生産性向上、2024年対策にも繋がっているそうです。

このことにより、令和4年度のグリーン物流パートナーシップ会議でも物流DX表彰を受賞しました。

まさに発想の転換でドライバーの仕事環境を改善して安全性を高めつつ、効率化や環境負荷の軽減など、さまざまな問題をクリアしているところに感銘を受けました。

「第16回NASVA安全マネジメントセミナー」まとめ

「第16回NASVA安全マネジメントセミナー」まとめ

新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、人も物も活発に移動するようになってきました。そんな中で開催された「第16回NASVA安全マネジメントセミナー」。今年は特別講演として池袋暴走事故の遺族である松永さんから、貴重な生の声を伺うことができました。

交通事故にあわれたご家族の心のケア、被害者のケア、多岐に渡るニーズ。“数字”を追っているだけではわからない、被害者や遺族のリアルを声を聞くことで、より一層事故を起こしてはならないという強い思いを再確認できたセミナーだったのではないでしょうか。

NASVAキャラクター「ナスバちゃん」
NASVAマスコットキャラクター「ナスバちゃん」

松永さんから、講演の冒頭と最後に各事業者さんたちの日々の取り組みに心から感謝しています、とのコメントがありました。

年々、死亡事故の件数は減っているかもしれませんが、重度の障害を負う人は決して減っていないこと。事故の加害者も被害者も一生消えない傷を負うことを自覚して、さらなる運輸の安全に取り組んでいかねばと感じた1日でした。

また来年もぜひ聴講し、皆様のお役に立てるレポートをお届けしたいと思います。

■取材協力
NASVA(独立行政法人自動車事故対策機構)

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