2020年NASVA安全セミナーまとめ

自然災害対応へ運輸安全マネジメントを活用「第15回NASVA安全マネジメントセミナー」

2020年10月20日(火)に東京国際フォーラムで開催されたNASVA(独立行政法人自動車事故対策機構)主催の「NASVA安全マネジメントセミナー」を取材してきました。

今年は新型コロナウイルス感染症予防の観点から、受講人数を制限するなどの対策が取られる中での開催。本来ならセミナーを受講する予定だったのに参加できなかった、という方も多かったのではないでしょうか。

新型コロナウイルス感染予防対策がとられている会場

拙いレポートではありますが、できるだけわかりやすくセミナーの様子をお伝えできればと思います。

今回は特に、2020年7月6日に国土交通省より発表があった「運輸防災マネジメント指針」の策定を踏まえ、どのように各事業者が取り組んでいくべきかについての基調講演がありました。

自然災害の頻発化・激甚化が問題になっている昨今、どのように備え、対策していけばいいのか悩んでいる事業者さんも多いはず。

バス・タクシー・トラック各事業者の輸送の安全への取り組み事例も併せてお伝えしていきます。

貸切バスで歩行者・自転車巻き込み事故が気になった2019年

国土交通省自動車局安全政策課長・石田氏

NASVA理事長・濱氏、国土交通省自動車局次長・江坂氏のあいさつに続いて、国土交通省自動車局安全政策課長・石田氏による 『事業用自動車の安全対策について』 の基調講演がありました。

5年ごとに発表されている「交通安全基本計画」は2020年度まで。現在は次の第11次計画がまとめられているところです。第10次の目標は以下の2つ。

  • 24時間死者数を2,500人以下とし、世界一安全な道路交通を実現
  • 死傷者数を50万人以下にする

全体的には交通事故件数は減少傾向にあり、10年前に比べ半減しています。しかし、交通事故死者数に関しては減少率が停滞気味。

中でも2019年は貸切バスで9件と増加してしまったという残念な結果に。

事故の中身を具体的に見てみると、交差点での歩行者巻き込み事故や自転車巻き込み事故などが多く、気のゆるみや安全確認が不十分などの問題が挙げられていました。

◆国土交通省自動車局「事業用自動車安全通信」より

健康起因の事故を減らしたい

バスの交差点での死亡事故を踏まえた事業用自動車の安全確保の徹底について、メールマガジンで以下のような通達がありました。

バス車両がT字路を右折する際に、交差点の歩道上を車両左手側から横断する子どもと衝突し、死亡する事故が立て続けに起こっています。以下の徹底について再確認ください。

  1. 右折時に車両左手側から進行する歩行者などに注意する
  2. 歩行者や自転車が横断歩道や道路を渡る際どのように行動するかを理解し、配慮すること
  3. 歩道側に植え込みなどがある見通しの悪い交差点では、歩行者や自転車が飛び出してくる可能性があります。必ず一時停止または徐行し、注意して運行すること

タクシー・トラックで飲酒運転事故が増えている

飲酒運転事故が増加

昨年同様、交通事故発生状況で問題なのが「飲酒運転」。2012年までは減少し、その後横ばい状況が続いていましたが、2019年は56件も発生し、2018年に比べて16件も増加してしまいました。

そのうちトラックで48件、タクシーで8件という内訳となっています(バスでは0件)。飲酒運転での事故事例を見ると、以下のような問題がありました。

  • 前日に飲酒し、アルコールが抜けきっていなかったものの、点呼者不在だったのでそのまま乗務
  • 点呼時に飲酒していたが、アルコール検知器に息がかからないよう工夫して逃れた
  • 運行中の休憩時に飲酒
    車両にアルコールインターロックが装備されていたが、エンジンをかけた状態にしておいたため、休憩時に飲酒しても運転再開できた
  • 点呼後にタクシープールで飲酒
  • フェリー移動の際、船内での飲酒が常態化していた(下船時に点呼の未実施)
  • 事業者から運転手へ飲酒運転防止についての指導が十分に行われていなかった

遠隔地であってもリアルタイムでアルコール検知器を用いた適切な点呼を実施する。ドライバーへの飲酒運転教育指導の徹底。フェリーを利用する事業者においては、抜き打ちでのドライバー状況確認をするなどの、再発防止策がとられています。

運転に自信がある、ベテランドライバーであればあるほど「酒気帯び運転しているがいつも問題ない」「すぐそこまでだから」「捕まらなければ大丈夫」と考えがち。事故を起こしてからでは取返しがつきません。

体重など個人差はありますが、アルコールが体から抜けるまでビール350ml1缶で約2時間半、日本酒1合なら約4時間もかかります。ひと眠りすれば大丈夫と思わないこと。

飲酒運転はだめ

ハンドルを握るなら、前日も飲まないという覚悟が必要ですね。

今後は「飲酒運転対策」に特に重点的に取り組みたいということで、非対面でも点呼すりぬけができないようICT技術を応用することを検討中だそうです。

また、路線バス車内で高齢者の転倒事故、車椅子利用者の事故が増えていることを踏まえて、ユニバーサル対策をどのように進めていくかが課題。健康起因による事故防止と合わせて取り組んでいきたいとおっしゃっていました。

◆国土交通省自動車局「事業用自動車安全通信」より

遠隔地でも確実にアルコールチェック

飲酒運転による交通事故は「事業用自動車総合安全プラン2020」を策定した2016年以降で最多。

また、2020年国土交通省への報告が求められる重大事故が、昨年同時期を上回る13件発生(速報ベース)。特に、5月に入り4件の事故が発生しています。

そこで以下の点を周知徹底してください。

  1. 飲酒による身体への作用・影響や飲酒運転の危険性等を事例を用いて理解させる
  2. 確実な点呼の実施体制が確保できているか確認し、必要に応じ見直しを行うとともに、点呼時におけるアルコール検知器を用いた酒気帯びの有無の確認を行う
  3. 運転者の飲酒状況を把握するとともに、日常的に飲酒する習慣がある運転者に対しては、遠隔地の点呼において確実に酒気帯びの有無を確認できる機器を用いるなどにより管理を行う

健康起因事故は右肩上がり、積極的に乗務を控えていることの現れととらえてる

健康起因事故の報告が増えてる

運転手の疾病により、運転を継続できなくなったという報告は増加傾向にあります。ただ、以前に比べ、無理をせずに積極的に乗務を辞めていることの現れと、ポジティブにとらえているとのことです。

健康起因による報告の中身を見てみると、運転の中断などで事故に至らなかったものが約8割ですが、残り2割は運転中に操作不能になっています。

特に乗合バスでの乗務中断が大幅に増加。運転中に突然意識を失い、歩行者を巻き込んでしまった事故、電柱に激突して乗客がケガをした事故など、記憶に新しいのではないでしょうか。

また観光バスの事例で、点呼時には問題がなかったものの、インフルエンザにり患しており、急激に体調が悪化。夕方には意識がもうろうとして、ハイヤーに乗り上げ、運転手が死亡してしまうという痛ましい事故もありました。

体調に異変があった場合はすぐにでも営業所に連絡すること。また、運転手が体調異変の連絡をしやすい職場環境を整備してほしいとおっしゃっていました。

国土交通省では毎年、健康起因事故防止のための取り組み状況についてアンケート調査を行っています。簡単に実施できる「SAS」は実施率が上がっており、特にバス事業者では受診率8割(タクシー26%、トラック31%)となっています。

MRIで脳のコンディションをチェック

脳ドックが必要な「脳血管疾患」についてもバス業界では57%の受診率(タクシー・トラックで9%)。2019年7月に「心臓疾患・大血管疾患対策ガイドライン」を追加で策定したこともあり、こちらもバス業界で2018年度は4%だったものが13%の受診率(タクシー13%、トラック14%)となっています。

タクシー・トラック事業に比べると、バス事業者の積極的な取り組みが感じられる結果ですね。

特に健康起因により死亡した運転者の疾病別内訳をみると、心臓疾患、脳疾患では高確率で死に至ります。今後、受診率がさらに向上していくといいですね。

激甚化する自然災害への備えとして「運輸防災マネジメント指針」を策定

激甚化する自然災害への備えとして「運輸防災マネジメント指針」を策定

続いて国土交通省大臣官房運輸安全監理官・藤田氏の基調講演です。テーマは「自然災害対応への運輸安全マネジメントの活用」について。

2020年7月6日に発表された「運輸防災マネジメント指針」策定の背景には、ここ毎年のように頻発している大規模な自然災害が挙げられます。がけ崩れや浸水などが起これば、即、輸送の安全の脅威になります。

国民生活や経済を支える重要なインフラである運輸事業。食料や水の供給、安全な移動など、災害時も事業継続は必須です。

それゆえ、運輸事業者の防災意識の一層の向上は重要な課題。防災への備えが運輸安全マネジメントにも役立つという考え方のもと、どのように取り組むべきかガイダンスで示したものが「運輸防災マネジメント指針」です。

今後、運輸安全マネジメントには自然災害への取り組みを盛り込むことが求められています。

「運輸防災マネジメント」をどのように盛り込むべきか?そのポイントは?

運輸防災マネジメントについて

基本は「運輸安全マネジメント」と同様、災害時のリスク評価を行い、どのように備えるかを決定して危機管理を行う。経営トップが率先して全社一丸となって取り組むという流れです。

災害時の人的・物的被害を最小限に抑え、安全を確保しつつ早期復旧・事業再開を目指すことがテーマになります。

新型コロナウイルス感染症拡大により、経営を圧迫している今。なかなか新しいことに投資するのは厳しいと思います。

自然災害への備え

しかしながら、車両が水没するなど被災した場合に保険料がどのように増額されるかを国土交通省で試算したところ、1年で約3,000万円も増額してしまうという結果に。優先順位を決めて、できることから取り組んでいくことを考えてほしいとのことでした。

「運輸防災マネジメント」実施のポイントは?

防災マネジメント実施のポイント

防災マネジメント実施のポイントは以下の5つ。

  1. 災害別のリスク評価
  2. 経営トップによる判断(人・モノ・カネの優先配分など)
  3. 平時の備え(PLAN・DO)
  4. 「顔の見える関係」の構築
  5. マネジメントレビューの実施

それぞれをダイジェストに解説していきましょう。

1.災害別のリスク評価

災害のリスク評価

自然災害にもさまざまな種類があり、それぞれ対策内容が異なります。冠水による交通マヒなのか、営業所の水没被害なのかなど、各事業者で優先的に取り組む課題の洗い出しをしてみましょう。

また、被害の程度はどの程度になると見積るのか。過去の事例などを参考に具体的な被害とその復旧にかかるまでの日数なども計算する必要があります。

例:
・本社や営業所等の耐震性はどうか(震度いくつで倒壊の恐れがあるのか)
・運行ルートに地盤が脆弱なところ、津波による被害を受けそうなエリアはあるか
・台風等で川が氾濫する恐れがある地域の把握
・がけ崩れの指定地域の把握

西日本豪雨(倉敷市真備町周辺)の際、実際に浸水したエリアと、ハザードマップ予測エリアはほぼ一致していたといいます。ぜひハザードマップを積極的に活用してほしいとおっしゃっていました。

国土交通省の「重ねるハザードマップ」「わがまちハザードマップ」、区市町村等が提供している「土砂災害ハザードマップ」が参考になります。

2.経営トップによる判断

輸送の安全同様、自然災害を重要なリスクととらえているかがポイント。危機管理はもちろん、事業継続の上で何にどのぐらい投資するのかは経営判断を伴います。

経営トップが率先して取り組み、災害後に最優先で再開、確保したい輸送や業務をきちんと整理しておくことが重要です。また、社員の安全や生活も守らなければなりません。

3.平時の備え(PLAN・DO)

平時の備え

大規模災害が起きた場合の基本方針(旅客や社員の人命を最優先するなど)、対応責任者(安全統括管理者、経営トップなど)、担当部署を決めておきましょう。

また、対策マニュアルを策定。発生直後の連絡リスト、対応手順、落ち着いた後の手順、計画運休などの情報発信の手順など決めておく必要があります。

特に自社が被災した場合、輸送拠点を自社内でカバーし、代替輸送できるか。もしできない場合、他社を活用した代替輸送ができるかを考えておくことです。

西日本豪雨の際、呉線の旅客輸送の一部として瀬戸内海汽船で代替輸送を行った事例もあります。

自然災害を想定した訓練や教育、備蓄品の整備、非常時の電源確保などやるべきことはたくさん。各事業により優先順位は異なると思いますので、他社の事例などを参考にぜひ備えておきましょう。

4.顔の見える関係の構築

顔の見える関係の構築

大規模な災害が発生した場合、自社だけで対応することは非常に困難です。日頃から地方運輸局との連携、自治体との災害協定締結、同業他社との代替輸送契約など、協力関係を構築しておくことが重要。

特に災害訓練を地方自治体と共同で開催するなど、実践的な経験を積むといざという場合も冷静な判断・行動が可能。

地方運輸局も災害時は運輸部ではなく、総務部の安全防災・危機管理課との連携が必要になります。災害を想定した関係性の構築をぜひ積極的に図ってほしいとのことでした。

5.マネジメントレビューの実施

マネジメントレビュー

マネジメントレビューとは直訳すると「経営者を含め、経営に関わる層による見直し」ということになります。具体的には、防災に関わる備えや行動に対し、問題点や懸念点、成果などを見直して改善を積み重ねること。

できれば日常的な事業活動の中で改善できる点を随時見直すことですが、なかなか難しい場合は、少なくとも年に1回は振り返りをする機会を持ちたいものです。

特に他社の事例などは参考にすべき点が多いので、意識して情報収集に努めてみてはいかがでしょうか。国土交通省では自然災害対応の取り組み事例をホームページで随時公開しています。

「長電バス」の台風19号でバスの水没被害を回避できた事例や、交通機関の計画運休により成田空港に到着した大勢の旅客が成田空港に足止めになってしまった事例など、成功・失敗に学ぶことができます。

今後も随時追加していくとのことなので、定期的にぜひチェックし、防災マニュアルの改善に役立てていってはいかがでしょうか。

ヒヤリハットの活用と安全意識向上「名鉄バス」の取り組み事例

名鉄バスの取り組み

名鉄バスは、 愛知県全域で路線バスを運行する他、コミュニティバス、近距離高速バス、空港バス、貸切バス事業などを行っています。今回は、安全に関する具体的な取り組みとその成果についてご紹介しましょう。

重点的な運輸安全マネジメント取組みより、4年間で事故件数が45%減

名鉄バスの運輸安全取り組み状況

運輸安全マネジメントで年間目標を策定し、PDCAサイクルを回して改善を行うための「目標設定シート」を作成。平成27年度の事故件数を100%として令和元年には55%まで減少させることに成功させました。

さらに令和元年からは周知ポスターを作成。「5つの事故防止」「インシデント(事故につながる事案)撲滅に向けた具体的な行動指標を掲げて啓蒙をスタートさせています。

また「周知カード」を作成して、社員が自分自身で営業所事故抑止数値目標件数をカードに記入して名札に入れて携帯するなど、意識付けを行っています。

全社員が主体的に目標達成へ関わることができるので、そんな工夫も事故抑制へつながりやすくなっているのかもしれませんね。

経験に応じた教育カリキュラム、新しい手法を取り入れて常に改善

名鉄バスのドライバー教育

安全運転に欠かせないドライバー教育。毎年研修内容やカリキュラムを見直し、外部教育機関研修を取り入れながら進化させ続けているそうです。

名鉄バスでは安全はもちろん、CS(顧客満足)向上も重視した研修プログラムを実践。シニアドライバーに対しては名鉄自動車学校での安全運転研修なども行っています。

教育実習車を3台導入し、アイマーク機能を活用した事故惹起者向けの教育に活用。新任研修では高齢者疑似体験セットを取り入れ、車内事故防止などを実践的に学べるようにしています。

最近増えている車いす利用者の車内事故防止に対しても、ダミー人形を用いた急制動実験で体感してもらうなど実車体験も充実させています。

量より質でヒヤリハットを活用

量より質でヒヤリ・ハット収集

平成27年度から積極的にヒヤリ・ハット情報の収集に取り組んできた名鉄バス。まずは報告しやすい環境づくりの整備として、情報集めを行う施策に取り組んでいたそう。

令和元年からはヒヤリ・ハットの内容に注目し、本社に情報を集めて分析。事故防止に有益なものを全営業所で共有する方針に転換しています。

危険個所を路線図に明記、注意点を解説して周知する、営業所での事例発表、版教育集会の他、いつでも乗務員が確認できるようモニター動画を配信するなどの対策を行っているそうです。

点呼システムや安全装備の充実など、お金をかけるところはしっかりかける

飲酒運転での点呼漏れで事故が多発しているという事例を紹介しましたが、名鉄バスでは厳正な点呼の実施と業務の効率化を図るため、設備投資を実施。

静脈認証による本人確認後、アルコールチェック、ICチップを使った運転免許証確認後、対面点呼を実施。さらに内勤者が点呼の様子を確認できるようにデスクレイアウトを変更するなど工夫を重ね、厳正化しました。

安全装備に関しては、通信型デジタルタコグラフ・ドライブレコーダー一体型の設備、IP無線などを導入。ヒヤリハット収集や長距離高速バスが出先で遭遇したトラブル対応などに役立てています。

また、右左折時に歩行者や自転車を巻き込む事故が増えていることに対しては、「右左折時一時停止」のステッカーをバスに添付。ドライバー自身の意識付けに有効活用しているそうです。

安全運転・CSへの取り組みモチベーションアップを応援

名鉄バスではベストCSメンバーカードを作成

名鉄バスではベストCSメンバーカードを作成し、社長や安全統括管理者からの直筆コメントを入れてドライバーへ直接手渡ししているそうです。

社内無事故表彰や運輸安全マネジメント目標達成営業所表彰など、各節目ごとに実施。令和元年からは営業所無事故50万㎞表彰を始めています。

これは以前100万㎞ごとに無事故表彰をしてきたものを、半分の50万kmに変更。目標を達成しやすくすることでモチベーションの維持につながり、事故件数も減っているとか。

小さな目標を積み重ねることで大きな安全を産み出すことができる事例のひとつですね。

安全風土を作り出すには従業員満足(ES)も大切

安全やCSだけに目を向けていては目標は達成できません。従業員満足(ES)にも目を向け、コミュニケーションの活性化も工夫している名鉄バス。

特にドライバー不足が深刻な運輸事業において、女性ドライバーが活躍しやすい環境を整えることに積極的に取り組んでいます。意見交換や情報共有することで、不安や不満を解消。

風通しのよい職場であることが、離職防止につながりますし、特に何かあった時の報告をスムーズにできる環境を育てることが事故防止にもつながります

小学校でのバス乗り方教室を実施するなど地域貢献や、利用者側の交通安全意識向上につなげ、より安全・安心なバスの運行に勤めているそうです。

事故防止を運転手任せにしない「大和自動車交通羽田」の取り組み事例

大和自動車交通羽田の事例

大和自動車交通羽田は、平成26年4月に設立したまだ若い会社。大和自動車交通から分社して誕生しました。

運行管理者として事故を起こさないようにどのようにドライバーを教育するべきか。事故をゼロにすることは困難であっても、限りなくゼロに近づけることはできます。

そのためには具体的にどうしたらよいかについて、ドライブレコーダーを活用した取り組みを紹介してくださいました。

「安全指導」しても運転者に伝わらなければ意味がない

運転手に伝わるように指導できているか

「事故防止に努めてください」と声かけするだけでは伝わらない。どのように行動することが安全運転なのかを具体的に、運転場面で活かせるように伝えるにはどうしたらいいのでしょうか。

例えば長時間、悪天候のもとで運転を続けていると注意力が低下し、漫然運転になりがちです。普段なら危険を感じる場面で「気付き」が遅れ、事故につながってしまうのはよくあること

また、自分では安全運転を心がけているつもりであっても「ヒヤリ・ハット」の感じ方は人それぞれ。結果として「自分なり」の運転となり、はたからみるとヒヤリとする場面でも自分自身では「気付いていない」こともあることでしょう。

運転手自身が気づきにくくなっている部分を補うのが管理者の仕事。ドライブレコーダーの映像を活用しながら、客観的に自分の運転状況を知ること、どんな運転を行えば安全なのかを具体的に「標準化」して伝えることが必要だと感じたそうです。

「これぐらいは大丈夫」と自己判断しないための安全運転の「標準化」

運転の標準化

例えば追突事故を回避するために重要なのが車間距離です。よくある方法が、●m開けるという数字での目安や道路上で目印を決めて車間距離を保つという方法。

しかし、何度やってもうまくいきません。結果として「前の車との間に地面が見えるぐらい間隔をあけて停める」というルールを決めた結果、ドライバーたちに浸透していったそうです。

車を停めるときはもちろん、走行中も同様に車間距離を開けて走れば周囲もよく見渡せます。先を焦らずにゆとりのある運転ができ、ドライバー自身の疲れが軽減。乗せているお客様もぴりぴりしないというメリットが生まれたそうです。

もう一つ、右折で起きた事故を例にとり、標準化した運転行動の例。

交差点侵入時に右折できそうなタイミングだったため、小回りで速度を十分落とすことなく曲がってしまったため、横断歩道上にいた自転車を巻き込む事故を起こしてしまいました。

右折時の標準化

この場合の「右折する標準化」は、交差点中心付近まではハンドルを切らずに進行。右側の安全確認(特に横断歩道を渡ろうとしている歩行者、自転車を注意)してからゆっくりとハンドルを切ること。

さらに横断歩道とは垂直に進行し、左右の安全確認を行い、その後先に進む。というように、右折時にショートカットしないことを徹底しました。

ドライブレコーダーは運転者・管理者双方に気づきを与え、お互いを補うことができる

ドライブレコーダー

ドライブレコーダーの映像を見ることは、ドライバーにとって客観的に自分の運転を振り返ることができます。また、事故を起こした事例を見ると、たまたま自分は事故を起こしていなかったけれど、同じような運転をしていたことに気付きます。

運行管理者が映像を活用してドライバーに「気付かせる」指導をするだけではなく、ドライバーの方から「こんな危ない場面があった」という報告もよくあります。

ドラレコを通じて管理者・運転手とのコミュニケーションを活性化させることができると同時に、管理者が気付かなかった改善点を与えてもらうことで、さらなるPDCAが始まります

大和自動車交通羽田では、PDCAを以下のようにとらえているとのこと。

P:運転の標準化
D:運転者に示達
C:運転素行の確認~標準化運転実行の確認
D:事故事例やヒヤリハットからの気づきの発見

しかし、実際はAである事故事例が発端でPDCAサイクルが回るとのこと。運転手が「気付き」やすくするための客観的な視点としてドライブレコーダーを活用し、現在では「車間距離」「発進時」「一時停止」「右左折」「進路変更」「後退時」の運転を標準化しているそうです。

運行管理者としての心構えは「気付き」に敏感になること

事項防止を運転手任せにしない

「安全運転」とはどのようなものか、伝えているようで伝わっていない。一方的に指導するだけでは、事故防止を運転手任せにしていることと同じです。

ドライバーが陥りやすい現状の把握。ドライバーの心理を理解し、「気付き」を与える指導を行うことが大切です。

具体的にどんな場面ではどのように行動することが安全運転なのか。誰でもわかりやすく、実際に行動できる方法を伝えることが管理者の使命。

そのためには管理者自身も「気付き」に敏感であることが求められます。

ドライブレコーダーの映像は、そのような場面で大変有効。これからも積極的に活用していきたいとおっしゃっていました。

最新テクノロジーで漫然運転にも対応「日立物流」のトータルソリューション

「日立物流」のトータルソリューション

最後の事例紹介は株式会社日立物流から。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、通販で買い物をする人が急増し、物流の小口化、多品目化が進み、効率の低下が問題になっています。

作業の効率化はもちろんのこと、安全の確保は今まで以上に求められています。しかし、ドライバー不足・高齢化はどこの企業も深刻化。

ドライバー不足は深刻化

働く時間は長くなっているのに、賃金は下がるというまさにブラック化が進んでいると言わざる負えません。

大型自動車免許を令和元年時点で12万人が取得(内閣府・令和元年交通安全白書より)しているものの、ドライバーとして就業しているのは3万人。トラック業界での女性比率はわずか3.4%で、女性で免許を取得していても就業していない人がかなりいらっしゃるというのが現実です。

セミナーの基調講演の中でも健康起因の事故は増加しているという発表がありました。ドライバー不足による過労運転を改善することは急務であると同時に、事項防止・安全教育の充実、自然災害に備えた体制を整えていかなければなりません。

アナログ主流の物流業界にDXを積極的に推進

デジタルトランスフォーメーション

DXとはデジタルトランスフォーメーションのこと。AIやIoTなどの新しいデジタル技術を使って、業界が抱える問題を解決するというものです。

社会全体がSociety5.0(内閣府が定義・情報化社会の次としてサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会を目指すという意味)に向かっている中、トラック業界ではいまだに電話やFAX、紙での台帳管理などアナログ主流

そこで日立物流では、輸送事業のDXを積極的にする維新することで、安全性・効率性を図り、サスティナブルな輸送事業を実現する「SSCV=Smart & Safety Connected Vehicle」を開発しました。

「安全管理」を見える化する「SSCV」

sscv

日立物流が開発した「SSCV」は最新テクノロジー(IoT・AI)を活用した、事故を未然に防ぐ輸送デジタルプラットフォーム(システムを動かすために必要な土台)です。

開発のきっかけとなったのは、同一事業所で半年に連続3件の追突事故が起きたこと。いずれも運転中「居眠り」「わき見」「携帯操作」していたわけではありませんでした。

事故後にヒヤリングを行ったところ、「家族が病気で入院中」「悩み事があった」「介護で寝不足」「疲れていた」など、間接的な原因が浮かび上がってきました。

つまり、運転中にぼんやりしていたり、考え事をしていて「見ているようで、見ていない」漫然運転が原因(精神的疲労)ではないかと考えられます。

「わき見運転」「安全不確認」などの対策はしてきましたが「漫然運転」は、従来の対策では防げません。通常の点呼では見つけられないこうした体調の変化を、最新テクノロジーで解決できないかとスタートして完成させたのが「SSCV」です。

運行中の「疲労」と「運転行動」をリアルタイムで“完全に見える化”する

日立物流のSSCVとはどんな仕組みか

ハインリッヒの法則によると、300件のヒヤリ・ハットを収集することで1件の重大事故を防げるとあります。SSCVを導入すると、リアルタイムで注意喚起できるのでその都度、改善連絡が可能。事故を未然に防ぐことができます。

SSCVには以下5つのサービスが組み込まれています。

  1. 出発前点呼サービス
  2. 運行中ドライバー向け注意換気サービス
  3. 管理者への運行中の有事情報通知サービス
  4. 運行中データ可視化サービス
  5. 帰着後点呼サービス

簡単に概要を解説します。

1.出発前点呼サービス

出発前点呼サービス

体温計や血中酸素温度計、手首型血圧計、自律神経針とIoTデバイス測定を導入。客観的な数値を基にその日の体調や疲労傾向を分析し、迅速に異常を把握できるシステムです。

過去のデータと比較がグラフ化して表示されるので、体調の変化も一目瞭然。ヒヤリ・ハット予報機能があるので、具体的な運行アドバイスも可能ですし、ドライバーの“気づき”も引き出せます。SASの簡易的なチェックも可能だそうですよ。

2.運行中ドライバー向け注意換気サービス

運行中ドライバー向け注意換気サービス

運行中、IoTドラレコ、モービルアイ、スマートホン(心拍センサーとBluetoothで連動する)などのデバイスと連動。

衝突事故検知・車間距離不足検知・車線逸脱検知・ストレス状態検知など「危険運転」「危険状態」などが発生した場合に警告音を発報し、リアルタイムで注意喚起を行います。

現在、体調異常を検知すると本人にも通知が行きますが、それよりも前にドライバー挙動を本人に通知する機能を開発中とのことでした。

3.管理者への運行中の有事情報通知サービス

管理者への運行中の有事情報通知サービス

こちらは運行管理者向けのサービス。モービルアイ、心拍センサー、IoTドラレコなどのデバイスで検知した情報をリアルタイムでスマホに通知される仕組みになっています。

  • 危険運転通知
  • 体調異常検知
  • ドライバー挙動(開発中)

これらの情報を基に随時、的確なアドバイスやサポートが可能です。

4.運行中データ可視化サービス

運行中データ可視化サービス

運行中の全車両・ドライバーを地図上で「リアルタイム」で確認可能。体調に異常のあるドライバーは色分けして表示(疲労ありなど)。マウスをかざすと具体的なドライバーの状態確認ができます。

車両位置情報・体調異常情報などが表示されるので、必要に応じて運行管理者から注意喚起がその場でできます。

5.帰着後点呼サービス

帰着後点呼サービス

帰着後、その日に運行したルートとAIで自動検出されたショート動画(車間距離不足、急制動、ストレス状態など)を使って、短時間で振り返りが可能。体調も同時に見える化できるのでドライーバー自身の“気づき”も促せます。

事象ごとに評価や指導内容を入力可能。未確認動画を探す手間が省けるので、指導漏れもなくなります

ドライバー個々人に最適な教育が可能であり、客観的な視点でのアドバイスを簡潔に伝えられるため、お互いの心理的な負担も減らすことができます。

また、ドライバー自身もIoTボタンを押すことで、ヒヤリ・ハットや事故情報共有が可能。他車から幅寄せされた、逆送車発見、落下物、工事現場、他車両の事故遭遇など、AIで検知できないが危険につながる事象を管理者へ知らせることができます。

「SSCV」開発はボトムアップのプロジェクト

SSCVはボトムアッププロジェクト

SSCV開発にあたり大切にしたのは、現場の生の声から「めざす姿」を追求したこと。目の前で起きた事故に直接対応するだけはなく、現場で「安全管理」「労務管理」「安全指導」などさまざまな場面でどのようなことに困っているかを吸い上げたそうです。

その上で、産官学による学識者連携、現場との二人三脚で試行錯誤を繰り返し、実際に導入した後もきめ細かなフォローアップを続けて完成させたシステム。

ドライバーを運転中にモニターする(生体情報取得)仕組みは世界初の試みとなりました。

現在、日立物流グループ全車両に2019年から順次導入して稼働済。1年分のデータ収集ができたグループ会社の例ですが、総インシデント発生件数を80%も減少させることができたそうですよ。

ドライバー本人も気づけない「漫然運転」予防を会社全体で取り組む

SSCV構想から開発・導入まで

ドラレコやデジタコなどを設置しているものの、運行中の安全管理はドライバー任せになってきました。管理システムを導入しても結局は「紙」ベースでのアナログ管理で、日々のデータ蓄積・解析ができていなかったのが現状。

忙しい中でこういったデータを活かした指導などを的確に行うことは、ドライバー・管理者双方にとってもメリットがたくさんあります。

気合・根性・経験・勘の4K 管理から脱却し、組織全体で客観的、効果的、効率的に安全運転に取り組むための頼もしいツールに仕上がりました。

導入当初は「監視されてる」「効果があるのか」「めんどくさいのでは」「コストがかかる」などの意見があったそうですが、事故ゼロの「志」を丁寧に説明。実体験や説明会などを積み重ねることで理解を得ることができたそうです。

健康起因事故防止や新型コロナウイルス感染症予防にも有効

SSCV導入効果

SSCVには体温測定や自律神経チェック、心拍センサーなどのデバイスとの連動が可能。体調変化をモニターしてくれるので、本人が気づいていない不調を知らせてくれます。

インフルエンザに罹っていて急激に体調が悪化した事例がありましたが、こういった事故も事前に察知することができますね。飲酒運転事故撲滅にも大変有効なシステムだと感じました。

また、導入後にエコドライブ(燃費改善)効果やドライバーの公正な評価、コミュニケーション活性化などさまざまなメリットが生まれているとか。ドライバーも体調不良(疲労)を感じているのに、無理な運行を強いられることがなくなりますね。

事故が減少すれば保険料も安く抑えることができるので、長期的な視点に立てば経営的にもプラス。ドライバーも働きやすい職場になるので、人材不足解消にもつながるのではと思いました。

「第15回NASVA安全マネジメントセミナー」まとめ

第15回NASVA安全セミナーまとめ

コロナ禍の中行われた「第15回NASVA安全マネジメントセミナー」。今年は特別講演としてロサンゼルスオリンピック鉄棒金メダリスト・森末慎二さんの、知られざる貴重なエピソードをうかがうことができました。

運輸安全をテーマとするセミナーで固い話が続く中、巧みな話術で会場を沸かせ、なごやかな雰囲気に。さすがプロです!

ロサンゼルスオリンピック鉄棒金メダリスト・森末慎二さん

運輸事業において「安全対策はこれでもう万全」はありません。年々被害が多くなる自然災害においても、運輸安全マネジメントの一つとして真摯に取り組んでいく必要があります。

コロナ禍の影響で経営が苦しい事業者さんもたくさんいらっしゃるはず。そんな中で、一生懸命に安全運行に取り組む姿勢に頭が下がる思いです。

また来年もぜひ聴講し、皆様のお役に立てるレポートをお届けしたいと思います。

■取材協力
NASVA(独立行政法人自動車事故対策機構)

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▶安全な貸切バス会社の選び方はこちらを参考に

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