災害・テロなどをどう対策する?国土交通省主催「運輸事業の安全に関するシンポジウム2022」

こんにちは!編集部Iです。

2022年10月17日(月)、久しぶりに有人開催となった国土交通省主催の「運輸事業の安全に関するシンポジウム2022」を取材してきました。場所は有楽町にあるよみうりホール7階。

今回のテーマは「運輸安全における今日的課題(防災・テロ対策・小規模事業者等)」です。こちらはオンラインでも同時配信ということで、会場内は席数を減らし、新型コロナウイルス感染症対策に配慮しながらの開催でした。

よみうりホール7階で開催
「よみうりホール」7階で開催

年々自然災害が激甚化し、2022年も各地に大きな被害をもたらしました。また、小田急線・京王線電車内で起きた傷害事件、知床遊覧船事故などは記憶に新しいところです。

国土交通省では、運輸安全マネジメントだけではなく、自然災害への対応を想定した運輸防災マネジメントも令和2年(2020年)から策定。2021年度のシンポジウムメインテーマとし、本格的な取り組みを実施しています。

2022年度は引き続き自然災害への対応強化やテロ対策とどう向き合うか、小規模事業者の運輸安全対策をどう進めていくのか、各運輸モードでの事例報告を含め、講演内容をわかりやすくお伝えしたいと思います。

▼過去のシンポジウム取材レポート
2016年「運輸事業の安全に関するシンポジウム」
2017年「運輸事業の安全に関するシンポジウム」
2018年「運輸事業の安全に関するシンポジウム」
2019年「運輸事業の安全に関するシンポジウム」
2022年「運輸事業の安全に関するジンポジウム」

令和4年(2022年)度運輸安全マネジメント優良事業者等表彰

令和4年(2022年)度運輸安全マネジメント優良事業者等表彰

国土交通省事務次官・藤井直樹氏のあいさつに引き続き、令和4年(2022年)度の運輸安全マネジメント優良事業者等の表彰が行われました。

今年は国土交通大臣表彰として「株式会社ヤマザキ物流」が 、危機管理・運輸安全政策審議官表彰として「神奈川中央交通株式会社」「西日本空裕株式会社」、それぞれに賞状が手渡されました。

株式会社ヤマザキ物流においては、教育研修設備を搭載した検定車を活用。研修施設を持たない営業所や協力会社でも研修が可能となる環境を整えるなど、安全意識の醸成、運転者の運転技術向上に尽力したことが評価されました。

国土交通大臣表彰として「株式会社ヤマザキ物流」
国土交通大臣表彰・株式会社ヤマザキ物流

神奈川中央交通株式会社は、運輸事業者向けの副読本「事故、ヒヤリ・ハット情報の収集・活用の進め方」の策定に向けた協力や研修等を通じて、運輸安全マネジメント制度を普及・促進。

西日本空輸株式会社は、シミュレータを活用した訓練を継続的に取り組むとともに、全操縦士が非常操作技量を習得できる環境を整備し、さらなる安全性の追求に資する教育・訓練体制を構築。

それぞれの功績により、危機管理・運輸安全政策審議官表彰となりました。

運輸安全における今日的課題と運輸事業者への支援などについて

国土交通省 大臣官房 運輸安全管理官 西本俊幸氏
国土交通省 大臣官房 運輸安全管理官 西本俊幸氏

表彰式に引き続き、国土交通省大臣官房運輸安全管理官・西本俊幸氏より、「運輸安全における今日的課題」についての報告がありました。

運輸安全マネジメント制度が導入されたのは2006年(平成18年)、ヒューマンエラーを起因とする事故が連続して発生したことがきっかけです。

「安全管理規定の作成」「安全統括管理者(役員以上)の専任」「経営トップのリーダーシップの下、自主的な安全管理体制を構築・運営」を義務付け、国土交通省では運輸安全マネジメント評価やセミナー、シンポジウムを実施することにより、その啓発や向上に努めています。

経営よりも優先すべきは“安全”ということで、各事業者が懸命に取り組んできた安全管理体制。

ちなみに貸切バス事業においては、2022年6月に申請・更新が行われたセーフティバスで全国1,923事業者が認定を受けています。三ツ星を取得したバス会社は765者、二ツ星は434者、一ツ星は724者。

今回のシンポジウムでもオンライン参加者を含め、約1,500名が参加したそうです。

運輸安全マネジメントは環境や時代の変化に合わせた見直しが必要

運輸安全マネジメントは環境や時代の変化に合わせた見直しが必要

国土交通省では、今日的な課題として認識しているのは以下の4点。

  • 自然災害への対応
  • テロ等への対応
  • 安全統括管理者の活動支援/中小規模事業者への浸透
  • 小規模な海運事業者に対する運輸安全マネジメントの推進等

特に自然災害の頻発化・激甚化は顕著で、2021年から2022年にかけての大雪。2月には札幌圏での大雪でJR北海道の除雪作業が難航しました。

3月には福島県沖を震源とする震度6強の地震で東北新幹線が脱線。6月には石川県能登地方を震源とする震度6弱の地震、7月には大雨が続き、桜島の噴火もありました。

このため、国土交通省では運輸防災マネジメント指標を策定するとともに、運輸事業者の災害への対応に関する取り組み状況を聴取。改善に向けた評価を実施するなど施策を行ってきました。

ハザードマップを活用してリスクを把握し、万が一のためにプライオリティを決め、どのように行動するかを決めておくことが重要です。今回のシンポジウムでも小田急電鉄株式会社が富士山が噴火した場合に備えた、防災取り組みについて発表することになっています。

電車内で起きた傷害事件を受けて、テロ等への対応を強化

運輸関係のテロ対策

2021年8月6日、小田急線車内で起きた無差別死傷事件。20代男性が車内で牛刀を振り回し、10名の男女に重軽傷を負わせました。

途中で牛刀の柄が折れたため、持ち歩いていたサラダ油を撒き、火をつけようとしましたがうまくいかずに逃走しました。

同じ2021年10月に、こんどは京王線特急列車内で男が刃物で乗客を切りつけ、ライターオイルを撒いて放火。18名が重軽傷を負う事件が発生しました。

この事件を受け、警備を強化する、警察との連携強化、安全避難誘導の徹底などさまざまな施策を強化。事業者に対しては運輸安全マネジメント評価でどのような取り組みを行っているかについての確認も行っています。

今回のシンポジウムでも、セントラル警備保障株式会社によるテロ・車内トラブル等への施策についての紹介&展示が行われました。

北海道・知床遊覧船事故を受け、小規模事業者の運輸安全マネジメント取組みを推進

いまだに6名の方の行方がわかっていない、2022年4月に起きた知床遊覧船事故。この事故を受けて知床遊覧船事故対策本部が発足し、捜索や安全対策検討、事故究明対応、ご家族支援などが行われています。

中間報告取りまとめとしては、事業者の安全管理体制の強化、監査・行政処分の強化、船員の資質の向上、設備要件の強化、船舶検査の実効性の向上、利用者保護・安全情報の提供が挙げられました。

調査結果では事業者経営トップに安全意識が欠如していたことをとらえ、小型旅客船事業者への運輸安全マネジメント取組み強化が求められています。

今回のシンポジウムでは小型旅客船事業者の運輸安全マネジメント取組み例として、東尋坊観光遊覧船株式会社の発表が行われてました。

私たちは電車内という密室で、どのように行動し、身を守ればいいのでしょうか

車内テロから身を守るためには
車内テロから身を守るためには

電車は通勤や行楽、買い物など日常的に利用している便利な移動手段。しかし、車内で昨年のような刺傷事件が起きてしまった場合、私たちはどのように行動したらいいのでしょうか。

不特定多数の人が出入りする電車内は、決して安全な場所ではないという認識を持つ必要があります。特に、スマホでゲームや動画に没頭する、大音量で音楽聞くなどをしていると、周りの状況が把握できなくなる危険性があります

ほんの数秒、車内の変化に気づくのが遅れただけで生死を分けることも。小田急線や京王線で起きたことは、別の路線でも起きうる可能性がある。いつも利用している電車だからと油断するのは危険なのです。

電車内に防犯カメラがなく、非常通報ボタンが押されたものの、容疑者から逃げるために車掌と連絡が取れずに対応が遅れたという課題もありました。

非常通報装置の場所を把握

特急や快速電車内のように逃げるのが困難な場合、自衛できる手段はあまりないといわれていますが、乗車前に自分が乗る電車の「号車番号を覚えておく(非常通報の際に現場の特定に役立つ)」、乗車後に通報装置や消火器の場所がどこにあるか確認、緊急時にどのように行動するかのイメージを待つということが挙げられています。

なかなかすべての駅の避難場所や避難経路を把握しておくのは難しいとは思いますが、利用している駅だけでもしっかり覚えておくだけでも冷静になれますね。

小型旅客船事業者の運輸安全マネジメント取組み例事例「東尋坊観光遊覧船株式会社」

東尋坊観光遊覧船株式会社
東尋坊観光遊覧船株式会社の発表

東尋坊観光遊覧船株式会社は、福井県にある名勝・東尋坊の迫力ある柱状節理を海から楽しめる観光クルーズサービスを提供している会社です。従業員13名で平均年齢は30~40歳。

80名乗りの船を2隻、69名乗りの船を2隻所有しており、約10コースの遊覧ルートがあります。

遊覧船が発着する船着き場は自然の入江や崖を利用しているため、岩礁が露出している、風・波の影響を受けやすい、崖を利用した急階段を昇降するなど、日ごろから注意を要する場所。

また、海域においても岩礁、砂地、川の流れ込み、天候急変による運航中止の判断、緊急時乗り場変更、プレジャーボート・水上バイク・SUP等が航路を通る、海女さんが近くで漁をするなど、東尋坊ならではの特性があります。

これまでも積極的に安全に関する取り組みを継続的に実施してきましたが、特に力を入れてきたことについて発表がありました。

社内自主ルールの作成

自主ルールとは、自分たちの意見をもとに、自分たちで決めるルールのこと。船乗りの世界では船長の意見が絶対で、なかなか自分の意見が言えないという事情があります。

昔気質の船長が多く、危ないと思うこともしばしばあったそうです。そこで、甲板員のみで集まり、様々な意見交換や改善策を話し合い、今の現場にあったより良いルールを決め、改善を重ねているそうです。

事情や環境の変化に合わせて柔軟に変更・対応。トップダウンではなく、ボトムアップ型の改善を行うことでより実践的な内容にすることができているとのことでした。

現場海域を想定した訓練

現場海域を想定した訓練
現場海域を想定した訓練

万が一座礁した場合、どのように救助、曳航を行うかの実施訓練を行っています。机上ではなく、実際に海に出て、無線で救助要請を行う、救命胴衣着用の説明、待機中の船を救助に向かわせる、座礁船を沖へ曳航するなど、一連のトレーニングを実践。

現場海域に合ったトレーニングで、いざというときに慌てないように、どう行動すべきかを体験できるようにしているそうです。

PDCAサイクルに沿った自主訓練

環境に沿った訓練・改善を繰り返しスパイラルアップを図るPDCAサイクルを回す。このため、ヒヤリハットの収集をいかに推進するかを工夫しているそうです。

どのような訓練があるか考え、実際に体験。問題点を発見し、改善策を考える。船員のスキルアップや経験値を積み上げることで、より質の高い安全対策が可能になると考え、実践中です。

生身の人間で行った救助訓練で、問題点の発見と改善できた例

生身の人間で救助訓練を実施

運航海域で、お客様が落水した場合を想定した救助訓練を生身の人間で行ったことがあるそうです。この時に浮彫りになったのが以下の問題点。

  • 救助船は風下から落水者に近づく:落水者が死角に入り、若い船長は怖くてなかなか近づけなかった
  • 甲板員は救命浮環を投入:最適な場所に投げいるのが難しい、人にぶつけてしまう船員もいた
  • 緊急用梯子まで誘導して救助:装備していた梯子ではオーバーハングになり、自力では上がれなかった

せっかく梯子を装備していても本番ではまったく機能しないことが判明。その御改善策を講じ、スムーズに登れるようになったそうです。このように実践的な訓練を行うことで、事前に問題点が見つかり、改善できたのは大きな収穫でしたとおっしゃっていました。

ヒヤリハットの活用

ヒヤリハットを収集することは、大きな事故を未然に防ぐ重要なポイントであるため、積極的に報告してもらうためのルール化や報告のしやすさがカギ。

どんな些細なことでも気が付いたことは順次報告してもらい、朝礼やミーティングで話し合い、全員で共有するよう努めています。

知床遊覧船事故を他山の石としないために

東尋坊観光遊覧船株式会社では、昨今の船員不足により減船することになってしまいましたが、かといって未熟な者を船長にすることはできません。

まずは陸上員として2~3週間にわたり研修を行い、「乗客の安全最優先意識等の育成」を徹底させます。その後、実際に海に出て2~3か月の実践訓練を受けてから甲板員となります。

船長になるためにはオールシーズンの経験を積む必要があり、最低5~6年のキャリアが必要です。しかし、10年以上在籍していても船長になれない人もいますし、降格もありうるという厳しい世界。

船長に任命するのは会社であり、その責任を負わねばなりません。

今回の知床遊覧船事故を受け、安全管理と通信手段に大きな問題があったと考え、以下の取り組みを実施しました。

  • 運航基準順守の徹底
  • 非常時の連絡体制の再確認
  • 非常設備 通路の点検
  • 排水ポンプの作動確認
  • GPSのズレ確認
  • 毎朝の無線テスト実施 ルール化

特に、無線テストは陸上から遊覧船が目視できていたことから特に行ってこなかったとのこと。今回の事故を教訓とし、毎朝5㎞離れた場所まで船を運航してテスト、記録を残すようにルール化したそうです。

安全のために取り組んでいることを積極的に発信

知床遊覧船事故の後、運行基準への問合せが増える、700名以上のキャンセルが発生するなど、東尋坊観光遊覧船でも大きな影響を受けました。

このため、社内訓練の様子を初公開し、安全への取り組み等を積極的にSNSで配信、取材を受けるなどを実施しています。安全対策に取り組んでいる姿勢をしっかり公開することで、安心して利用してもらえるよう努めているそうです。

自然相手ということもありすべての事故が防げるわけではありませんが、いざというときに慌てず対処できるようにしておくことは大切なこと。

バス会社選びでも同様に、安全への取り組みが“見える化”されているかどうかをチェックし、選ぶという姿勢を忘れてはいけないと思いました。

テロとどう向き合うか「セントラル警備保障株式会社」の取り組み事例

セントラル警備保障の発表

セントラル警備保障は、施設警備からホームセキュリティまで幅広くてがけている会社で業界3位の大手になります。今回は電車内でおきた刺傷事件を受け、駅や車内、関連施設、沿線リスク対策についての講演がありました。

近年起きている駅周辺での事件には以下のようなものがあります。

  • 2015年6月「東海道新幹線列車火災事故」男性がガソリンを被り、焼身自殺
  • 2015年8月~「都内鉄道施設火災などの連続発生事件」
  • 2018年6月「東海道新幹線車内殺傷事件」男性が刃物で切り付け、死傷者が発生
  • 2021年8月「小田急線車内傷害事件」男性が刃物で切り付け、重軽傷者が発生
  • 2021年10月「上野駅構内傷害事件」男性がATMに並んでいた2名の方に刃物で刺し、ケガを負わせる
  • 2021年10月「京王線車内傷害事件」男性が刃物で切り付けた上、ライターオイルを撒いて放火、18人が重軽傷

この他にも特定の人物を狙った犯行ではありましたが、白金高輪駅で硫酸をかけて重傷を負わせるという事件も発生しました。こちらも被害者の近くにいれば、被害にあう可能性があり、危険性の高い事象といえます。

鉄道事業者におけるリスク対策にはどのようなものがあるか?

これまでの事件を振り返ってみると、駅の中、電車内、鉄道沿線、重要施設(車両基地・変電所など)すべてにおいてテロの危険にさらされているといえます。

駅構内であれば人的警備(巡回)、危険物探知犬の活用、車内はエマージェ・ウェアラブルカメラ、鉄道沿線はドローン・監視カメラ、重要施設はネットワーク防犯カメラと画像解析を使った集中管理が有効。

2019年のロンドンオリンピックで実際に行われたテロ対策を視察し、先の東京オリンピック・パラリンピックでも活用されました。

低コストで有効に機能できる画像解析サービス「VACSシステム」

セントラル警備保障株式会社の展示より
セントラル警備保障株式会社の展示より

テロ対策に有効とわかっていても、予算やリソースに上限がある以上、すぐに導入というわけにはいきません。そこでセントラル警備保障では、既存の設備を有効活用し、エリアを意識した構築可能な画像解析サービス「VACSシステム」を開発し、提供しています。

対象施設からの画像をCSP画像センターへ自動通報、検知された進入やうろつき、置き去りなどさまざまな画像を解析し、カメラ画像で状況確認。必要に応じてパトロール員出勤、各クライアントへ連絡するという仕組みです。

ローカルではなくグローバルに管理すること。アナログとテクノロジーを組み合わせ、誤報対策も行うこと。既存のものを活用することで低コストに省力化して警備強化することが可能となっています。

リスク対策のために警備を“見える化”することも重要

カメラによる監視や画像解析を行っても万全ではありません。必ず死角があるからです。

このため、人的警備も行いフォローするとともに、見られているということによる抑制力も狙います

2021年の事件以来、乗客の荷物を鉄道会社が検査できるよう法改正が行われましたが、人の流動が多いイベント時(オリンピックなど)になるべく通行を妨げないよう実施できることが重要。

このため、危険物探知犬を使った実証実験を実施。電車で初めて爆薬系の訓練を2019年12月に行い、大変有効であるという結果が得られたそうです。

人的警備と組み合わせてよりハイレベルな警戒

また、電車内で起きていることを把握するのはなかなか難しいため、ウェラブルカメラを活用するのが有効となります。事件が発生したらCSP関係部署へ瞬時に情報共有され、乗務員や総合指令所などの関係各所へ連絡。

現場駆け付けや現場対応がスムーズに連携できるという仕組みになっています。

夜間の警備に有効な画像センサー「トリガー」

重要施設などへの進入を検知するためには、画像センサー「トリガー」を提供可能。カメラ映像だけではなく、赤外線で侵入者を検知し、CSP指令センサーへ自動通報されます。

CSPパトロール員到着前に110番通報可能で素早い対応ができます。実際に夜間鉄道施設にい進入した人物を赤外線カメラで検知し、すぐに逮捕に至ったという事例をシンポジウムで見せていただきました。

カメラで感知するだけではなく、CSP指令センターから現地スピーカーに威嚇放送も行うことができるそうですよ。

広範囲をカバーできるドローン、カメラの活用

セントラル警備保障株式会社の展示より
セントラル警備保障株式会社の展示より

ドローンを使った監視は広範囲のエリアを警備できますが、電池切れなどの問題がありました。

そこで警備用気球カメラをつかった監視システムをオリンピック時には提供しました。100m以上の上空から、高性能カメラによる映像を各警察本部への配信を実施。

視覚的にも警備していることが伝わるので抑止効果が期待できました。

また、バッテリー不足を解消する有線型ドローンやサーマルカメラ統合型ドローンなどを使用することにより、「面」での警戒や素早い状況判断が可能となっています。

「セイフティ」と「セキュリティ」との違いを認識すること

「セーフティ」とは、交通事故や自然災害などにより起こる偶発的・突発的な悪意のない脅威に対する安全性のこと。

「セキュリティ」とは、進入や盗難、破壊など悪意を持って行われる人的な脅威に対しての安全性のこと。

昨年起きた電車内での事件は正直、想定外だったという事業者さんも多いのでは?海外に比べて日本の鉄道は治安が良く、テロに近い無差別殺人などが起こるという認識は乗客にもなかったといえます。

今後は各鉄道事業社の各種警備機器類を統合する、集中監視・集中運用を行うネットワーク構築が重要なのではというお話でした。

富士山噴火を想定した防災訓練の実施「小田急電鉄株式会社」取り組み事例

小田急電鉄株式会社の発表
小田急電鉄株式会社の発表

最後に小田急電鉄株式会社からの発表です。火山大国の日本において、噴火を想定した対策は必要不可欠。

最近では、2014年9月長野県で起きた御嶽山(おんたけさん)噴火の被害が記憶に新しいところでしょうか。山頂付近で水蒸気爆発を起こし、死者58名、行方不明者5名、負傷者61名という戦後最悪の火山災害となりました。

2018年御嶽山 規制緩和最終日の様子
2018年御嶽山 規制緩和最終日の様子

1707年の宝永噴火以降、約300年に渡り噴火していない富士山ですが、活火山であることには変わりなく、この先も大丈夫という保証はありません。

小田急線(多摩線・小田原線・江ノ島線)は、富士山噴火の影響を受ける場所を運行しています。このため、富士山の噴火による大規模降灰を想定した防災訓練を実施。

どのような影響を及ぼすのか、回復までに要する時間やどのように対策していくかを想定したシミュレーションを行いました。その結果浮き彫りになった課題についても検証。

1事業社だけでは解決することはできませんが、いざというときにどのように行動すべきかが実践的に体感できたそうです。

降灰が鉄道に及ぼす影響

富士山噴火による降灰の影響

万が一富士山が噴火した場合、風向きにもよりますが、山梨、神奈川、東京、千葉までがすっぽりと降灰に覆われ、小田急線全線すべてが重大な影響を受けます。

都心部へは約3時間程度で灰が到達。レールに灰が積もると電気を通しにくくなり、列車の検知ができなくなる恐れがあります。

このため、列車の衝突や脱線、踏切不作動などの問題が起きる可能性が指摘されました。

さらにその灰に雨等で水分が含まれると、逆に電気が通しやすくなり、漏電の恐れがでます。がいしなどに灰が積もると危険であることがわかっています。

わずかな降灰で、鉄道は最も早く機能停止。そしてかなり長い期間影響が続くため、移動手段などに多大な混乱が予想されました。

具体的に噴火の影響を把握し、それに基づく火山防災訓練を実施

2021年に机上訓練を実施

これまで小田急電鉄では富士山・箱根山などの火山がそばにあることを理解はしていたものの、噴火の影響を詳細に把握し、具体的な対応策を行ってこなかったといいます。

そこで今回、各部門ごとに火山噴火に伴う影響と対応を検討。それぞれを共有して整理し、合同訓練シナリオを作成して机上訓練を実施しました。

まずは気象庁の噴火経過レベル、降灰予報を活用。噴火警戒レベルが引き上げられた際にどのようなことが起きるかを以下のようにシミュレーションしました。

  • 運行計画などの問合せが殺到:車内放送、HP、マスコミ等へ運休の可能性を発表し、監督官庁や自治体へ運転の基本方針や現状報告を行う
  • 駅にお客様が集中して混乱:噴火が発生していなければ運転を継続
  • 運転を中止せざるを得なくなった場合、お客様が滞留:電車内にいる場合は最寄り駅まで運行して降車、避難所への案内を行う
  • 列車停止位置により、踏切の警報・遮断が継続:専門の係員を派遣し、踏切の開放処置を行う

この他、券売機や精算機に灰に侵入すると不具合が発生、列車の屋根上や床下機器の不具合、コネクタ内部で配線ショートなどが想定され、それぞれに合わせた対応策が話し合われました。

火山灰で埋まる住宅(雲仙普賢岳の例)
火山灰で埋まる住宅(雲仙普賢岳の例)

多量の火山灰が建物に積もると倒壊の恐れもできてきます。30㎝以上の降灰があり、万が一雨が降るとかなり危険な状況に。

除去した灰の処理などは単独での対応は困難でもあり、監督官庁や自治体等との検討を進める必要があることがわかりました。

2021年9月に机上訓練を行い、鉄道防災計画【火山災害編】を策定。この他、他社や自治体などとのすり合わせや連携が必要な課題については今後も詰めていく予定とのことでした。

最後に小田急電鉄では、2021年に発生した刺傷事件を受け、車内警備の見直しや実践的な訓練を行う他、消防や警察との連携をあらためて強め、同じような事象が起きた場合に迅速に対応できるよう対策を行っているとのこと。

安心・安全な鉄道運行に尽力していくとお話がありました。

火山噴火などの自然災害への備え(セーフティ)だけではなく、悪意を持って事件を起こそうと考えている人的災害への備え(セキュリティ)とどちらも警戒・対策が必要であることがよくわかるシンポジウムでした。

テロ対策・自然災害対策を中心とした展示ブースが出展

今回のシンポジウム開催テーマに合わせて全5社がブースを出展していました。

レーザーセンシング技術を活用したテロ対策を提案「株式会社デンソーソリューション」

株式会社デンソーソリューションの展示ブース
株式会社デンソーソリューションの展示ブース

デンソーでは長年の自動車部品開発で培ったレーザーセンシング技術を防犯用レーザーセンサに応用。検知エリアを自由に設定できる複合セキュリテイ「ZONE D」を紹介していました。

侵入者をとらえてしっかりレコーダーに記録。威嚇用照明やフラッシュライトなどで被害を未然に防ぐ対策も。

遠隔操作で侵入者の行動を見ながら的確なタイミングで自動音声やサイレンによる警告を行います。

フィルター機能により、鳥や動物、草木の揺らぎなどを排除。人や物のみの感知にしぼり、誤作動を抑制します。

この他、侵入者の通過の検知、追尾機能なども。

この技術を応用してさらに、敷地外を通過する歩行者や自転車への警戒も可能。出入口の衝突・接触事故の軽減などにも活用することができるそうですよ。

一般の方を狙った通り魔的な犯行にも対応「綜合警備保障株式会社」

ALSOK(綜合警備保障株式会社)の展示ブース
ALSOK(綜合警備保障株式会社)の展示ブース

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を守り抜いたALSOK(綜合警備保障株式会社)。女性や年配者、子どもなどソフトターゲットを狙った暴力、観光地等の人込みに車で突っ込むといった手口もあり、銃器や爆発物などを使わない犯行が増えています。

いつどこでどのように狙われるのかわからないということもあり、自衛が難しい側面もあります。ALSOKならではの経験に戻づくお役立ち情報やグッズ、訓練サービスなど、幅広い提案が可能とのことでした。

自然災害による被害状況を無償で一般公開するWebサイトを提供「あいおいニッセイ同和損害保険株式会社」

あいおいニッセイ同和損害保険株式会社の展示ブース
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社の展示ブース

自動車保険や火災保険、地震保険、旅行保険、傷害保険など幅広い保険商品を取り扱うあいおいニッセイ同和損害保険株式会社。エーオングループジャパン株式会社や横浜国立大学と共に共同研究の一環として「cmap.dev(シーマップ)」を開発しました。

自然災害による影響をリアルタイムで確認できるワンストップツール。台風・豪雨・地震による建物被害を予測し、ウェブサイトで無償公開します。

台風の予想進路や警戒レベル、ハザードマップなども確認可能。被害状況をシミュレーションすることで、いち早く災害対策のためのアクションができます。

また、台風・大雨に備えて「水災タイムライン」を作成しておけば、「いつ」「誰が」「何をするか」を整理することが可能。大切な従業員や被害を最小限に抑えることができるなどメリットがいっぱい。

水災タイムライン作成のサポートをしてくれるそうですよ。

画像解析システム等、人と技術との融合を推進する「セントラル警備保障株式会社」

セントラル警備保障株式会社の展示ブース
セントラル警備保障株式会社の展示ブース

シンポジウムで事例発表も行ったセントラル警備保障株式会社。警備サービスと防犯カメラを併用した画像解析システムの活用や大型国際スポーツイベント対策での経験を活かし、人的警備・危険物探知犬・エマージェ/ウェアブルカメラ・ドローンシステム等のサービスを提供しています。

展示ブースでは実際に現場で使用されているシステムや機器を紹介していました。

鉄道車両向け4G/LTE回線を利用した通信型防犯カメラを紹介「株式会社MOYAI」

株式会社MOYAI(もやい)の展示ブース
株式会社MOYAI(もやい)の展示ブース

ネットワーク通信関連事業やAI、IoT関連事業、ソフトウェア、携帯電話アプリケーションの企画・開発・運用などを手掛ける株式会社MOYAI(もやい)。通信技術とAI・IoT技術の融合で生活環境・公共空間を見守る次世代型ネットワークカメラ「アイ・オー・チューブ」を開発(特許取得済)しています。

カメラセンサー以外に、8つのセンサー(サーモセンサー・マイクロフォン・温湿度センサーなど)を標準搭載した「アイ・オー・チューブmodel Pro.W6」、4G(LTE)通信採用で移動体での高速通信を実現する「アイ・オー・チューブmodel Pro.4G」を展示しました。

小田急線や京王線などのような車内事件などに対応可能。遠隔地からリアルタイムの映像確認が可能で、内蔵されているSIMカードに動画を録画保存、双方向通話もできます。

駅のホームでの転落検知や社会的弱者(車椅子・白杖・ベビーカーなど)の発見・見守りにも有効です。すでに東急電鉄株式会社等で採用されています。

人的な警備だけでも、最新テクノロジーだけでもダメで、両方の経験や技術を融合することで被害を最小限に食い止めることができるという運裕事業におけるテロ対策、自然災害対策。

そして運輸事業者や自治体に寄りかかるのではなく、利用する私たち自身も日ごろからどのように行動すべきか考え、備えておくことも重要であるということをあらためて認識しました。

■取材協力
国土交通省
「運輸の安全に関するシンポジウム2022」

【開催日時】令和4年10月17日(月) 13時~15時
【開催場所】有楽町よみうりホール(東京都千代田区有楽町1-11-1 読売会館7階)
【講演内容】
●運輸安全マネジメント優良事業者表彰
●行政からの報告・・・・・資料はこちら
●取組事例紹介
(1)東尋坊観光遊覧船株式会社・・・・・資料はこちら
(2)セントラル警備保障株式会社・・・・・資料はこちら
(3)小田急電鉄株式会社・・・・・資料はこちら
●展示ブース(現地開場のみ)
<テロ・車内トラブル対策>(五十音順)
・セントラル警備保障株式会社
・綜合警備保障株式会社
・株式会社デンソーソリューション
・株式会社MOYAI
<防災対策>
・あいおいニッセイ同和損害保険株式会社

【国土交通省関連記事】
運輸事業の安全に関するシンポジウム2022
運輸事業の安全に関するシンポジウム2019
運輸事業の安全に関するシンポジウム2018
運輸事業の安全に関するシンポジウム2017
運輸事業の安全に関するシンポジウ2016

【NASVA関連記事】
「第11回NASVA安全マネジメントセミナー」
「第13回NASVA安全マネジメントセミナー」
「第14回NASVA安全マネジメントセミナー」
「第15回NASVA安全マネジメントセミナー」
「第16回NASVA安全マネジメントセミナー」

▶安全な貸切バス会社の選び方はこちらを参考に

タグ
関連記事
ランキング
貸切バスの達人は
全国1,100社以上の
貸切バス会社をネットワーク
参加バス会社のロゴ一覧
貸切バス料金を安く抑えるなら
バス会社の比較がポイント!

全国1,100社以上のバス会社参加
お得にバスを借りるなら一括見積

まとめて比較!貸切バス料金お取りよせ