第18回NASVA安全マネジメントセミナー

ハイブリット開催で過去最多の参加者を記録した「第18回NASVA安全マネジメントセミナー」

2025年11月25日(火)、NASVA(独立行政法人自動車事故対策機構)主催の「NASVA安全マネジメントセミナー」を取材してきました。2024年から遠隔地でなかなか参加できないという事業者さんのために、オンライン配信を同時に行うハイブリット開催をスタート。

2025年は過去最多の参加者を迎えることができたそうです。より多くの運輸事業者が安全のために日々努力していることがうかがえる盛況ぶりでした。

先日行われた国土交通省主催の「運輸事業の安全に関するシンポジウム2025」でも紹介されていましたが、今年は運輸安全マネジメント制度導入から20年という節目の年。

2025年のナスバ安全マネジメントセミナーの様子をダイジェストでご紹介していきましょう。

基調講演(1)事業用自動車の安全対策について

国土交通省物流・自動車局 安全政策課長 鈴木健介さん
国土交通省物流・自動車局 安全政策課長 鈴木健介さん

NASVA理事長である中村晃一郎さんや来賓の方のご挨拶に続いて、国土交通省物流・自動車局 安全政策課長 鈴木健介さんによる「事業用自動車の安全対策について」の基調講演がありました。

軽貨物を除き、事業用自動車による交通事故件数が減少

軽自動車を除き、事業用自動車による交通事故件数が減少

2024年(令和6年)中に発生した交通事故全体の件数(人身事故件数)は290,895件(2023年は307,930件)。そのうち、事業用自動車の交通事故件数は22,623件(2023年は23,606件)と約7.8%を占めています。

各モードの交通事故は全体的に減少傾向にありますが、「2025プラン」で掲げている事業用自動車の事故削減目標である16,500件以下は残念ながらを達成が難しいという状況となっています。

交通事故死者数の推移

また事業用自動車による交通事故死者数の推移に注目してみると、2024年(令和6年)に発生した交通事故全体の死者数は2,663人。そのうち、事業用自動車の交通事故死者数は286人(前年比で15人増)でした。

2019年(令和元年)と比較すると、乗合バスにおいて増加、タクシーでは同数という結果でした。貸切バスではプラン2025削減目標として10人以下となっており、2024年度は4名。

ただし、貸切バスの場合、ひとたび事故を起こしてしまうと大勢の方の命を奪ってしまうようなことになりかねないため、注意が必要です。

貸切バスでは追突による事故が多く、死亡事故では対人が多い

貸切バスでは追突による事故が多く、死亡事故では対人が多い

貸切バスでは全体的に2023年よりも事故数そのものは減少傾向。事故類型としては他者との「追突」が全体の約3割を占めています。

トップ3は「すれ違い・左折・右折時の追突」「追越・追抜・進路変更時衝突」「出会い頭衝突」でこちらは2023年と変わらず。貸切バスではこれらの事故を無くすというのが課題と言えそうです。

また、貸切バスでの死亡事故類型としては駐車中の事故が2件あり、「横断中」「すれ違い・左折・右折時衝突」がそれぞれ1件ずつでした。

乗合バスで特徴的な事故

ちなみに乗合バスでは車内事故(転倒)が全体の約3割にあたり、死亡事故では「横断中」などの人との事故が多かったそうです。「バステクin首都圏2025」でもバス車内で起きる転倒事故を防ぐために装置などが紹介され、運転手の負担を軽減しながら安全性を高める工夫として注目を集めていました。

小規模なバス事業者では、追突を回避するための安全装置が付いたバスに新しく買い替えるというのは難しいこと。後付けできる追突防止補助装置を活用する事業者が増え、少しずつですがハード面からの安全性向上にもつながっているのではないかと感じました。

国土交通省では事業用自動車のASV装置購入に対し補助金を交付しています。今後も積極的な導入をぜひご検討ください。

ネットでの買い物が増え、軽貨物による事故が増えているのが懸念点。「運行管理者の選任」「事故の報告」「乗務等の記録」「適正診断の受診、初任運転者等に対する特別な指導」の4項目で義務化で、事故を減らす対策が進められています。

「2024年4月問題」以降、プロドライバーを取り巻く環境はさらに深刻に

プロドライバーを取り巻く環境はさらに深刻

ドライバーの時間外労働が長いことから、その労働環境を改善する目的で厚生労働省より出された「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(以下、改善基準公示)」。2024年4月1日から施行され、「2024年問題」として大きな注目を集めました。

特に貸切バスの繁忙期では「バスは空いてるけど、ドライバーがいない」と断られるケースが頻発。

路線バスにおいてその運行維持に必要な人員は12万9,000人といわれているものの、2024年は10万8,000人しか確保できていないとのこと(日本バス協会の推計)。2030年にはドライバーの高齢化に伴い、3万6,000人も不足すると予想されています。

2023年に貸切バスの運賃・料金が見直しが図られたものの、バス運転手の平均給与額は、全産業平均給与額を下回る状況が続いています。担い手不足を解消するためには賃金水準を引き上げることは不可欠。

このため、2025年11月1日(土)から値上げをし、さらなる待遇改善に取り組むことになりました。

また、乗合バスでも自動運転レベル4に向けた実証実験が進められており、運転手不足による減便・廃線などに歯止めがかかればと期待がたかまります。バスドライバーを目指す人、辞めずに続けてくれる人が少しでも増えたらと思いました。

運行管理者不足、長時間労働等の課題も顕在化

運行管理者不足、長時間労働等の課題も顕在化

不足しているのは運転手だけではありません。事業用自動車の安全輸送の根幹を担う運行管理者も人材不足と長時間労働が課題となっています。

対面で点呼を行うことの大切さを維持しつつ、デジタルを適宜取り入れたICT活用による運行管理業務の一元化も。
遠隔点呼、自動点呼などの実証実験を踏まえ、省力化・効率化を目指しています。

事業者間遠隔点呼及び業務前自動点呼の制度化

事業者間遠隔点呼及び業務前自動点呼の制度化に向け、公示(令和7年国土交通省公示第347号)を2025年4月末で改正。事前に管理の受託申請を行い、地方運輸局長から許可を得るなど、実施が可能となっています。

健康起因による事故は貸切バスでは減少しているものの、引き続き注意が必要

健康起因による事故は貸切バスでは減少しているものの、引き続き注意が必要

健康状態に起因する事故報告件数は全体として減少。各モード別に見てみるとバスの多くは事故に至らずに乗務の中断を実施している一方で、タクシーやトラックでは約半数が事故に至ってしまっているとのことでした。

自動車運送事業の運転手の疾病による事故報告件数が平成26年に220件であったものが、令和5年に418件と右肩上がりになったことから、健康診断の受診を徹底させるべく、行政処分基準を強化したことにより、一定の成果が上がっているのかもしれません。

健康起因事故の疾病別の内訳

過去10年間で健康起因による事故を起こしたケースのうち、「心臓疾患」「脳疾患」「駄動脈瘤及び乖離」が全体の30%を占めているとのこと。

事業よ雨自動車運転者の健康管理に関する主な取り組み

国交省では健康管理に関するマニュアルの策定・改定を行い、ドライバーの健康管理を強化。中でも「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」が疑われる事故報告が増えていることから、発生した事故とSASの因果関係を把握するため、事故前後のSASスクリーニング検査の受診状況報告を明示化されています。

SAS対策マニュアルについては簡易版が作例されているので、ぜひ参考にしてほしいとのことでした。

また、高齢者において発症率が高い緑内障等、視覚障害を早期発見することもまた急務となっています。国土交通省では、「健康起因事故を防止するためのスクリーニング検査実施の支援」を実施。

健康起因事故防止を推進するための取り組みに対する支援

この他以下の支援も行っているので合わせてチェックしてみましょう。

  • デジタル式運行記録計及び映像記録型ドライブレコーダーの導入支援
  • 過労運転防止に資する機器導入のための支援
  • 自動車運送事業者が行う「社内安全教育のための外部専門家による指導を活用した場合の支援

事業用自動車による飲酒運転事故件数は全モードで減少傾向

事業用自動車による飲酒運転事故件数は全モードで減少傾向

事業用自動車で飲酒運転事故件数は全体的に減少傾向にあります(貸切バスでは0件)。飲酒運転による事故件数は37件で、そのうち35件がトラックにおける事故となっています。

飲酒運転事故発生状況で7件の点呼未実施が確認されているのも問題。飲酒のタイミングとして、休息中・運転中・休憩中・待機中が確認されています。

国土交通省では2024年飲酒運転をした運送事業者への行政処分の厳罰化を実施。また、自動車運送事業者における飲酒運転防止マニュアルを作成し、飲酒運転の撲滅を目指しています。

特に貨物軽自動車運送事業が伸びている中、安全対策がおろそかにならないよう安全対策を強化。貨物軽自動車安全管理者専任の義務など、一般貨物自動車運送事業と同等の処分基準を規定し、安全性向上に尽力しています。

貸切バス事業者の安全対策の強化

貸切バス事業者の安全対策の強化

大勢の方の命を預かり運行する貸切バス。重大事故を起こした事業者の大半は、運転手への指導監督が不適切、点呼が未実施であるなど運行管理が不十分なことが見受けられました。

2022年(令和4年)10月に静岡県で発生した貸切バスの横転事故(死傷者計29名)を踏まえ、二度と同様の悲惨な事故を発生させないよう行われたものです。

このため、2023年(令和5年)1月に運転者に対する指導・監督マニュアルを改正。「坂道での適切な運転操作」「非常口や非常停止ボタンの使い方の周知」を徹底させています。

また、10月には省令を改正「デジタル式運行記録計の仕様の義務化」「アルコール検知器使用時の画像記録保存の義務化」「点呼記録の動画保存の義務化」等を実施しています。

こちらの内容は国土交通省HP、YouTubeチャンネルにて公開中。ぜひ参考になさってくださいね。

次期事業用自動車総合安全プランの主な重点施策案

次期事業用自動車総合安全プランの主な重点施策案

「プラン2025」から引き継がれたものもありますが、2026年からの目標として以下の重点施策案が挙げられています。

  • 自動車運送に係る全ての者における行動変容の推進(利用者も含む)
  • 運行管理未実施、飲酒運転等悪質な法令違反の根絶
  • ICT、自動運転等新技術の開発・普及推進
  • 少子超高齢化社会における事故の防止対策の推進
  • 原因分析に基づく事故防止対策の立案
  • 道路交通環境の改善

実現を推進していくための補助金制度も上手に活用しつつ、業界全体で力を合わせて目標達成を目指していきましょう。

国土交通省で収集した事業用自動車に関する事故情報等のうち、特に重大なものを毎週金曜日にメールマガジンで定期信中。事故防止への取り組みに役立つとのことで、購読者数は2万人を突破しました。

過去に配信されたものも閲覧できますよ。

登録がまだという方はぜひこちらから≫

基調講演(2)運輸安全マネジメント制度の動向について

基調講演(2)運輸安全マネジメント制度の動向について

続いて国土交通省 大臣官房 首席運輸安全調査官の傳田重弥さんより、運輸安全マネジメント制度のこれまでとこれからについてのお話をうかがいました。

日本航空123便が御巣鷹山へ墜落した航空事故から40年、JR西日本福知山線列車脱線事故から20年、軽井沢スキーバス事故から10年を迎えるなど、2025年は節目の年。
そして、今年で20年目を迎える運輸安全マネジメント制度がスタートしたきっかけは、ヒューマンエラーが原因とみられる事故が立て続けに起こったことです。

発足から経緯については国土交通省主催の「運輸事業の安全に関するシンポジウム2025」で詳しくご紹介していますので、ぜひそちらを参照してください。

運輸安全マネジメント制度の現状

運輸安全マネジメント制度の現状

2022年に知床遊覧船沈没事故が起きたことを踏まえ、2023年から小規模海運事業者に対しても運輸安全マネジメントの推進を行っています。この他、以下のような取り組みが行われました。

  • 事業環境や社会環境の変化への対応(社員の高齢化、自然災害・テロ・感染症等、新たなリスクへの対応を明文化するなど)
  • マネジメントレビューの確認強化(取り組みへの振り返りをしっかり行い、地蔵区的改善と具体的行動計画を実施など)
  • 運輸安全マネジメントに関する有料事業者等表彰
  • 安全統括管理者会議(横のつながりや他モードからの気づきを得る)
  • 運輸事業の安全に関するシンポジウム
  • 運輸安全マネジメントセミナー

などで運輸事業者の取り組みの深度化を推進してきました。

また、運輸安全マネジメント制度について、利用者や利害関係者等への周知として、運輸安全マネジメント評価の公表国土交通省ウェブマガジン「Grasp(グラスプ)」での発信、旅行会社・荷主事業者向けにリーフレットで周知するなど、安全確保への取り組みについて理解を深めています。

また、2024年から「国土交通行政インターネットモニター」において、バス・タクシー・トラック・鉄道・船・飛行機を利用している国民に対し、運輸事業における安全に関する意識調査を実施

運輸事業における安全に関する意識調査を実施。

2025年度は運輸事業者の運輸安全マネジメントへの取り組みに関する設問を追加し、実施しています。

運輸の安全を取り巻く近年の状況を踏まえた課題認識

運輸の安全を取り巻く近年の状況を踏まえた課題認識については、「運輸事業の安全に関するシンポジウム2025」でも触れられていたのでここでは割愛。運輸安全取り組み事例について最後にご紹介しましょう。

広島電鉄株式会社(バス)の事例

地震・津波などの大規模災害(南海トラフ地震)の発生を想定。大規模災害基本対応マニュアルに基づいた訓練を営業中に利用者と一緒に実施。

有事の際に落ち着いた行動と的確な指示が行えるよう継続して訓練を実施。

詳しくはこちら≫

山陽バス株式会社の事例

運転手の退職年齢が近づきつつあるものの、採用試験応募者が中高年に偏っていることから、人材確保のための採用活動、教習計画を強化。

HPに待遇等の条件面だけでなく、現役運転士の体験談・アドバイス等を掲載。未経験者に対応した教育計画、高齢運転士にとって働きやすい職場づくり、乗務系統数の検討(仕事量の見直し)などを行い、高い定着率をキープ(若年層の応募は低調のまま)。

詳しくはこちら≫

センコー株式会社の事例

教え込教育の「ティーチング」ではベテランドライバーに対し、あまり有効ではないため、コーチング手法で教育・訓練を実施する体制を構築。

経験の浅いドライバーに対しては「ティーチング手法」、ベテランには「コーチング手法」を導入することで事故を削減できた。

詳しくはこちら≫

この他にさまざまな事例が紹介されていますので、国土交通省の運輸安全取組事例をぜひ参考になさってください。また、今日的課題として自然災害の項目も追加されていますのでこちらもぜひ。

特別公演「重度の障害を負った息子と過ごした30年」

特別公演「重度の障害を負った息子と過ごした30年」
全国遷延性意識障害者・家族の会 代表の桑山雄次さん

「第18回NASVA安全マネジメントセミナー」の特別公演に登壇されたのは、全国遷延性意識障害者(いわゆる植物状態)・家族の会 代表の桑山雄次さんです。

桑山さんの息子さんがスピード違反の車に撥ねられ、重度の障害を負ったのは1995年で小学2年生の時でした。一命はとりとめたものの、意識障害が遷延している(続いている)状態で、自力で動くことも、食べることも、話すことも、呼びかけに応じることもできない、最重度の障害です。

桑山さんの息子さんは、在宅看護が行われ、ホームヘルパーによるサポートを受けているものの、「痰の吸引」が行えるのは有資格者だけということもあり、実際に福祉サービスが受けられるのは週に3日程度にとどまっています。

まさに桑山さんご夫婦はこの30年間、片時も心が休まることなく介護にあたっているという現実。特にコロナ禍ではお2人だけで24時間介護が続いたという厳しい時期があったそうです。

法的には解決されても、法では解決されないことが多く、それが家族の負担となって重くのしかかっています。本人の無念、家族の無念。

事故当時7歳だった桑山さんの息子さんは37歳になり、人生を謳歌したはずの30年は失われたままとなっています。

交通事故被害者と家族の心中事件や心中未遂事件が数多くあるのは、こういった厳しい現実に押しつぶされてしまったという結果なのではないでしょうか。

私自身の知り合いで重度の自閉症を持つ息子さんのご両親が「1秒でもいいから息子より後に死にたい」とおっしゃっていたことがありました。息子さんを残しては死ねないという親の切実な思いがひしひしと伝わり、胸が締め付けられる気がしました。

桑山さんの息子さんですが、意思疎通への1つの希望とし、指筆談ができるのではないかということに気が付き、現在取り組まれているそうです。

桑山さんの息子さんのような被害者を生まないためにも、交通事故は決して起こしてはならないと肝に銘じ、さらなる運行の安全に取り組まねばならないと実感しました。

より多くの方に交通事故被害者とそのご家族からのメッセージが伝わることを願います。

Information

全国遷延性意識障害者・家族の会

特別公演「安全運転に必要な力:メタ認知を高めるには」

特別公演「安全運転に必要な力:メタ認知を高めるには」
近畿大学 准教授 島崎敢さん

続いて特別公演として登壇されたのは近畿大学 准教授 島崎敢さんです。”メタ認知”とは自分の「考える」「記憶する」「理解する」といった認知活動そのものを、もう1人の自分が客観的に捉え、監視・評価し、コントロールする能力のこと。

自分を客観的に見て、自ら成長する力といえるメタ認知能力が高いと、学習・仕事・人間関係などあらゆる場面で、自分を効果的にマネジメントし、よりよい成果や充実感を得やすくなるといわれています。

あおり運転をする人はメタ認知が低い!?

あおり運転をする人はメタ認知が低い!?

人は自分を客観視をするのが苦手です。例えば電車の中で電話をしている人を見ると「マナーが悪いな」と感じます。

しかし、自分にとても重要な電話がかかってきたら…?事情があるから電話にでている、マナーが悪いわけではないと思ってしまいませんか。

“メタ認知」”とは「今、ちょっと自分はイライラしているんじゃないか?」「自分ならできるできない?」「この方法であってる?」「知っている?」など、自己認識も”メタ認知”に含まれるのだとか。

あおり運転をしてしまうような人はこの”メタ認知”が低いといえるそうです。

“メタ認知”は安全に課題を遂行するためには重要な能力で、それ以外の社会生活にも重要な能力なのです。

タクシー会社でやった”メタ認知”に関する研究

タクシー会社でやった

島崎さんが行ったタクシー会社での研究があります。会社を出庫してすぐの一時停止交差点で隠し撮りし、顔とナンバーをぼかして誰の運転なのかわからない状態にして、自分の一時停止映像を評価してもらったそうです。

ご本人の自覚はきちんと停止しており、運転に問題ないと評価。しかし、隠し撮りしたご本人の運転を見せると、きちんと一時停止していないなど低評価だったそうです。

客観視する難しさ

つまり、自分の認知状態を認知し、客観視することがなかなかできないという結果が得られました。最後にネタ晴らしし、この運転はあなた自身ですよと伝えるとショックを受ける方が多かったとか。

外からみた自分のイメージを見せると、運転の改善につながる可能性が高いという結果が得られたそうです。

“メタ認知”の高い高齢ドライバーの方が、元気な高齢者よりも安全運転できる可能性が高い

高齢者ドライバーでよく問題視されるのは、機能低下により危険な運転になるのでは?ということ。ブレーキとアクセルの踏み間違えや高速道路逆走などさまざまな問題が指摘されています。

確かに年齢とともに機能低下は避けられませんが、”メタ認知”が適切であればリスクを軽減できます。自分の運転を客観視する自分という視点がある人は、「反応が鈍くなった」「目が悪くなった」という自覚が生まれ、「ゆっくり走ろう」「車間を開けよう」「入念に確認」「夜は運転しない」など、”補償行動”がみられるそうです。

認知機能測定「TMT(タスクスイッチングを伴う課題で交通事故リスクとの壮観が高い)」では、数字とひらがなを交互に線で結ぶ課題が、若者はもちろん、高齢者でもスピーディにできる人がいるのだとか。

ドライバー視点のCG映像を見ながら見るべき箇所をタッチする課題

また、ドライバー視点のCG映像を見ながら見るべき箇所をタッチする課題をやってもらい、どの程度タッチできたか自己評価。自己評価と実際のテスト成績のズレが小さいほどメタ認知能力が高いということになります。

「衰えているが自覚がある高齢者」は「元気な高齢者」よりも安全運転ができる、ということに。機能低下は若者であっても疲れや眠気などでも起きます。

メタ認知能力の向上こそが安全運転の要といえそうですね。

メタ認知能力はどうしたら向上する?

メタ認知能力はどうしたら向上する?

まずは自分の認知状態を意識するクセをつけること。具体的には日記を書き、自分が感じたこと、どう判断したのか、自分の認知を振り返る(言語化する)ことです。

その上、行動や判断の理由を話す、コーチングを行うなどの対策が有効とのことでした。「こうしなさい」型の教育ではメタ認知能力は育ちにくい。気づきを促す問いかけが重要なのです。

例えば、目標として「安全運転する」だけでは基準がわからないのでNG。一時停止は完全に止まる、前の車と2秒以上の車間を保つなど、具体的に客観的に測れる目標となっていることが重要となっています。

その上でできたかどうかを評価するを繰り返していくうちに、メタ認知能力は高まりますよ。

ティーチングからコーチングへ

ティーチングとコーチングの違い

先ほどの事例紹介でベテランドライバーにティーチングは通用しない。コーチングが大切、という話がありました。

コーチングとは対話を通じて相手の潜在能力や自己解決力を引き出し、成長を促すプロセスのことを言います。例えばティーチングなら「知識がある人がない人に教える」ですが、コーチングでは「学習者が自ら納得するよう支援」することになります。

ベテランドライバーに「こうしなさい」と指示しても、「やってる」「自分のやり方が効率が良い」になりがち。そこをコーチングで気づきを促す質問を行うことで、自己理解・対話が生まれ、変容につなげることができるのです。

ラポールを築く

答えや解決策は相手の中にあり、コーチは答えを与えるのではなく、発見を促す伴走者。トレーニングで大切な目標設定のポイントは以下の5点です。

  • Specific:具体的(例:交差点右左折時の安全確認手順を完璧にする、など)
  • Measurable:測定可能(車庫入れ3回連続成功など、数値で確認できるなど)
  • Achievable:達成可能(簡単でも難しくてもダメ、無理なく成長できる難易度)
  • Relevant:関連性(自分の弱点や課題に合った目標を選ぶ)
  • Time-bound:期限設定(明確な目標達成期限を決める)

この後、具体的なコーチングの手法を例を上げて紹介。ティーチングとの違いの一端を学ぶことが出来ました。

コーチングのポイントは気づきを促す適切な質問を投げかけること(問い詰めるのではない)。気づいてほしいことを本人の口から言ってもらうのが最も重要です。

安全運転を実現するには?

はじめは手間と時間がかかりますが、次第に自分で気づけるようになっていきます。運転初心者には従来型のアプローチは必要ですが、その後は安全のために考える力を育てることができるドライバーへ。

自ら成長できるドライバーを育てるためには「メタ認知能力を高めること」が重要だというのがとても理解できました。

島崎さんは「プロフェッショナルドライブ」というPodcastを配信中。「プロフェッショナルドライブ」で検索するか、https://prodora.jpでアクセスしてみてくださいね。

各運輸事業者による取組報告

後半はトラック(三福運輸株式会社)、タクシー(国際自動車株式会社)、バス事業者による取組報告がありました。ここではバス事業者である箱根登山バスによる取り組みをご紹介したいと思います。

「防災への取り組みについて」箱根登山バス

箱根登山バスによる取組
箱根登山バス株式会社 取締役運輸部長 鎌田隆一さん

箱根登山バスは小田原市に本社のあるバス会社(小田急箱根グループ)で、神奈川県西部や静岡県東部をカバーしています。

路線バス・貸切バスの他、貨物輸送の「箱根キャリーサービス」も実施。箱根湯本周辺の観光を手ぶらで楽しめるインバウンドの方にも人気のサービスです。

箱根周辺ではさまざまな自然災害リスクが想定されます

箱根周辺ではさまざまな自然災害リスクが想定されます

記憶に新しいのは2019年10月の台風19号により崩壊した箱根登山鉄道の線路が上げられます。バスの路線沿いには険しい山道が多く、道路が寸断された場合、う回路が少ないというリスクがあります。

冬の箱根は大雪が降るリスクがあり、一番の悩ましい問題は「夏タイヤ」で気軽に箱根に来る一般観光客です。山道が登れずに立ち往生して大渋滞を招くこともしばしば…。

さらに海岸線や河川に近い路線が多く津波・洪水に巻き込まれる可能性も。また、箱根と言えば火山噴火。

事業エリアには活火山が存在し、過去に箱根大涌谷での小規模水蒸気噴火などがありました。

箱根登山バスの防災への取り組み

ハード面の施策

事前の自然災害への態勢をハード面(備蓄備品類・非常用電源など)とソフト面からの対策を整備。通信連絡手段は営業所や案内所に設置したIP無線を、スマホタイプの「ハザードトーク」に更新し、写真・動画の共有が可能になるなど、利便性を向上させています。

もちろん、アナログ無線も備えているので、使えなくなった時のバックアップも。EVバスを導入し、緊急時の電源として確保できるよう備えています。

ソフト面からの対策としては、緊急連絡網や事業継続計画のブラッシュアップの他、防災マネジメントセミナーを受けて各種防災マニュアル類を整備。内容を更新し、より実効性のあるものにするなど、対策を行いました。

雪害への備え

例えば「積雪時の対応」としては毎年発生しうる問題なので、事前に予測が可能。情報収集や情報発信、要員の消臭、独自の警戒レベルを設定するなど、どんな時はどんな運行を行うのかを定めています。

災害対応マニュアルを運転席に装備

予測が難しい地震災害、津波災害、火山災害などでは、指示待ちでは間に合わないので、発生時の初動対応を決めてA4サイズの紙1枚にまとめたものをバス運転席に装備するなど、すぐに行動できる体制を整えています。

年に2回自然災害発生後の対応に備えた実効性のある研修を実施

年に2回自然災害発生後の対応に備えた研修を実施

もちろんマニュアルを整備するだけでは不十分。各種マニュアルの内容を従業員へ周知するため、個別に年に2回研修を行う他、全体動画研修なども活用して防災への備えを徹底しています。

今後の課題としては車両避難場所の確保が重要とのこと。箱根登山バスの車庫が海岸線や河川に比較的近く、緊急時にすべての車両を退避できる場所が確保しづらいのが問題となっています。

つい先日の2025年7月30日に起きたカムチャッカ半島付近地震で、津波警報が発令されました。最終的には30mの津波だったため、大きな被害はありませんでしたが、小田原市内線等の運行を中止し、箱根山﨑営業所と市内の高台に小田原営業所の車両が避難することに。

カムチャッカ半島付近地震による津波警報発令

国内ではなく海外で起きた地震の影響で、津波被害が起きる、というのを想定していなかったので、大きな学びがあり、ブラッシュアップの必要性を痛感したそうです。また、富士山噴火も想定に加えなければなりません。

優先すべきはお客様や従業員の命を守る行動。その上で、事業をどう守り、継続していくかが今後の課題とおっしゃっていました。

「第18回NASVA安全マネジメントセミナー」まとめ

ナスバ安全セミナーまとめ

なかなか0にできない交通事故被害。そして全運輸モードで深刻化するドライバー不足、自然災害の激甚化など、課題は尽きません。それでも懸命に輸送の安全に取り組む事業者さんたちの熱い戦いを体感できる1日でした。

どんなに気を付けていても事故は起きるもの。今回、メタ認知に関する講演を聞き、自分の運転を客観視することの大切さを学びました。

普段あまりハンドルを握ることがないので、一時停止や安全確認をいつも以上に徹底しようと心に誓って会場を後にしました。

■取材協力
NASVA(独立行政法人自動車事故対策機構)

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▶安全な貸切バス会社の選び方はこちらを参考に

この記事を書いた人
ちくわ

旅行メディア編集長兼ライター、総合旅行業務取扱管理者、旅行会社勤務経験あり、目黒区ボランティアガイド見習い中。プライベートでも古代史オタクとして年に数回フィールドワークに出かける旅好き。時々バス愛がさく裂!?

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